「テンペってなに?」
スーパーや健康食品コーナー見かけて気になったことがあるかもしれません。
テンペとは、インドネシア生まれの大豆発酵食品。
高タンパク・低脂肪・クセが少なく、ヴィーガン食材としても注目されている話題のヘルシーフードです。
そんなテンペには、宗教や気候、文化と発酵の深い関係が隠れています。
本記事では、インドネシアのテンペをはじめ、アジア各地の発酵食文化、さらには日本の発酵食品を支える麹菌まで、アジアの発酵食品を幅広くご紹介します。
発酵食品が好きな方、アジアの食文化に興味がある方、テンペ初心者の方にもおすすめの内容です。
テンペとは?インドネシアで生まれた発酵食品

テンペはインドネシアの伝統的な発酵食品。大豆を発酵させた、白いブロック状の食品です。
納豆ともよく比較されますが、テンペはにおいが控えめでクセが少なく、発酵に使われる菌も納豆菌とは異なり、テンペ菌(Rhizopus oligosporus)というクモノスカビ属の糸状菌が用いられているため、風味や食感も大きく異なります。
テンペは、東南アジアの気候と宗教的背景のなかで生まれた独自の食文化の産物です。
インドネシアはイスラム教徒が多く、宗教上の理由から豚肉を食べることができません。
そのため、肉の代わりにたんぱく質を補う方法として発展したのが、このテンペだったのです。
庶民の間で親しまれてきたテンペは、今では健康食品として世界中から注目される存在になっています。
テンペの原料と発酵のしくみ
テンペの主な材料は、シンプルに「大豆」と「テンペ菌」。
大豆を煮たあと、テンペ菌をまぶして発酵させることで、豆が菌糸で包まれ、白く固まった状態になります。
この菌は30〜37度程度の温かい気候でよく発酵するため、熱帯のインドネシアに適した微生物でもあります。
発酵の過程で豆のたんぱく質が分解され、消化しやすくなるのが特徴です。
また、調理しても崩れにくく、歯ごたえがあるのもテンペの魅力のひとつです。
テンペの栄養成分と健康効果|高タンパクで消化にやさしい
テンペは、発酵の力によって栄養価が高まった「進化した大豆食品」です。
100gあたりの主な栄養成分とその働きは以下の通りです:
テンペの栄養と効能(100gあたり)
| 栄養成分・特徴 | 含有量 | 主な働き・効能 |
|---|---|---|
| 植物性たんぱく質 | 15.8g | 筋肉・皮膚・ホルモンの材料となり、生活習慣病予防にも有効 |
| 食物繊維(不溶性) | 10.2g | 腸内環境の改善、便通促進、血糖値の安定など腸活効果 |
| イソフラボン | 数値不明 | 更年期症状の緩和、骨粗しょう症予防、女性ホルモン様作用 |
| 大豆ポリフェノール | 数値不明 | 抗酸化作用による老化予防、美肌・免疫サポート |
| テンペ菌の発酵作用 | — | 栄養吸収の効率化、消化促進、ビタミンB群・葉酸の増加傾向 |
| 低GI(糖質) | 約10.2g | 血糖値の急上昇を防ぎ、糖尿病やダイエット対策に有用 |
| マグネシウム | 約95mg | 代謝サポート、神経伝達や筋肉機能の維持、ストレス緩和など |
| 鉄分 | 約2.4mg | 酸素の運搬、疲労回復、貧血予防 |
| 亜鉛 | 約1.7mg | 免疫機能強化、味覚維持、細胞修復や集中力向上 |
このように、テンペは高タンパク・高食物繊維・低脂肪・低糖質という理想的な栄養バランスを持ち、現代人の健康維持にぴったりの発酵食品です。
テンペはどこで買える?スーパーや通販事情
近年テンペを取り扱うお店が増えてきました。
自然食品店やオーガニック系のスーパー、最近では大型スーパーでも冷蔵/冷凍コーナーで売られています。
例えば、業務スーパーではオリジナルのテンペが販売されています。
また、ネット通販(Amazonや楽天、自然派食品サイト)でも手軽に購入できて便利です。
なお、輸入品だけでなく、国内で製造された国産テンペもあり、風味や食感の違いを楽しむこともできます。
テンペの食べ方と簡単レシピのヒント

テンペはそままでは食べられず、油で焼いたり、揚げたり、炒めたりするのが定番です。
インドネシアでは「テンペ・ゴレン(揚げテンペ)」がポピュラーで、軽く塩味をつけてスナック感覚で食べられています。
日本でも、以下のような簡単な食べ方が人気です:
- 薄切りにしてフライパンで焼くだけ(しょうゆやみりんで味つけするとおいしい)
- カレーや炒め物の具材として使う
- フライや照り焼きにして、お弁当のおかずに
レシピの詳細は割愛しますが、クセが少ないので納豆よりも取り入れやすい発酵食品として、多くの人に受け入れられています。
アジア各国の発酵食品とその特徴
アジアには、気候や風土、宗教、保存技術の工夫から生まれた、個性豊かな発酵食品が数多く存在します。
ここでは東南アジア・東アジア・南アジアの3地域に分けて、それぞれの代表的な発酵食品を見てみましょう。
日常の料理でおなじみのものから、ちょっと意外なものまでご紹介します。
そもそも「発酵」とは?しくみと文化の関係
発酵とは、微生物の働きによって食材が変化し、旨みや栄養が増したり、保存性が高まったりする現象です。
酵母やカビ、細菌などが関与し、人間にとって有益な変化をもたらす点が特徴です。
似た現象に「腐敗」がありますが、下記のように区別されます。
- 発酵:人間に役立つ微生物の作用
- 腐敗:有害な微生物による変質
つまり、人にとって「役立てば発酵、害があれば腐敗」と考えることができます。
こうした微生物の力と人間の知恵が結びついた結果、世界各地に多様な発酵文化が生まれました。
とくに温暖で湿度の高いアジアでは、驚くほどバリエーション豊かな発酵食品が今も暮らしの中に息づいています。
東南アジアの発酵食品
東南アジアでは、魚やエビなどの海産物を使った発酵食品が豊富に存在します。
ナンプラー(魚醤)やガピ(エビの発酵ペースト)、ミャンマーのラペッ(発酵茶葉)など、
地域の気候や宗教・暮らしに根ざした発酵食が多彩です。
ナンプラー(タイ)

ナンプラーは、小魚を塩漬けにして長期間熟成発酵させた魚醤で、タイ料理に欠かせない調味料です。
旨味成分であるアミノ酸が豊富で、炒め物、スープ、サラダなどあらゆる料理に使用されます。
独特の香りはありますが、加熱することで香ばしさと深みを生み出し、腸内環境を整える効果や、ミネラル補給にも役立つとされます。
ガピ(タイ・カンボジア)

ガピは、エビや小魚をすりつぶして塩と混ぜ、発酵させたペースト状の調味料です。
強い香りと塩気が特徴で、タイの「ソムタム(青パパイヤサラダ)」や、炒め物に使われます。
発酵によるアミノ酸やカルシウムが含まれており、少量でも深い旨味を加えることができます。
シエン(カンボジア)
シエンは魚を発酵させて作る濃厚な調味料で、タイのナンプラーよりも粘りと風味が強いのが特徴です。
カンボジアの家庭料理や市場での発酵食品の代表格で、特に魚を主食とする地域で重宝されています。
タンパク質やカルシウムが豊富で、伝統的な保存食としても機能しています。
ラペッ(ミャンマー)

ラペッは、茶葉を発酵させたミャンマー独特の漬物です。
ピーナッツや豆、にんにくと混ぜて「ラペットゥ(茶葉サラダ)」として食べられ、ミャンマーでは儀式や日常で広く親しまれています。
茶葉の抗酸化作用と発酵による整腸効果が期待され、健康食としても注目されています。
トゥアナオ(ラオス)
ラオス版の納豆であるトゥアナオは、日本の納豆と比べて粘りは少なく、より乾燥した形状で、炒め物やディップソースの材料として用いられます。
発酵によりビタミンB群が生成され、消化吸収を助ける効果も。
大豆由来の植物性タンパク質も摂取でき、健康志向の食材として注目されています。
パデーク(ラオス)
パデークは、魚を骨ごと発酵させて作るラオス独自の魚醤です。
数ヶ月から数年かけて熟成されるため、味は非常に濃厚で香りも強烈ですが、ラオス料理の深い旨味を支える要です。
EPAやDHA、タンパク質を豊富に含み、発酵による保存性も高い食品です。
東アジアの発酵食品
東アジアでは、大豆や野菜を発酵させた保存食が長い歴史を持っています。
納豆やチョングッチャン(韓国の発酵大豆)、キムチ、ザーサイ、さらには発酵茶として有名なプーアル茶や烏龍茶などもこの地域ならではの発酵文化の一部です。
キムチ(韓国)
おなじみのキムチは、白菜や大根を塩漬けし、唐辛子やニンニク、魚醤などとともに乳酸発酵させた韓国の代表的な漬物です。
種類も豊富で、地域や季節によってレシピが異なります。
乳酸菌が腸内環境を整えるほか、ビタミンCや食物繊維、カプサイシンによる代謝促進効果も期待されます。
チョングッチャン(韓国)

チョングッチャンは、大豆を発酵させた味噌の一種で、納豆のような強い匂いと粘りがある韓国の伝統食。
スープにして食べるのが一般的で、温まるだけでなく、高タンパクかつ発酵パワーによる免疫力向上も見込めます。
ザーサイ(中国)
ザーサイは、中国四川省発祥の漬物で、からし菜の根を塩漬け後に香辛料とともに発酵させたものです。
シャキシャキとした食感と程よい辛味が特徴で、お粥やラーメンの付け合わせとして定番です。
植物性乳酸菌による整腸効果やビタミンB群の補給が期待できます。
プーアル茶(中国)

プーアル茶は後発酵茶の一種で、茶葉を微生物の働きで熟成させます。
カビや菌の種類によって香りが変化し、熟成期間によって味に深みが増します。
脂肪の吸収を抑えたり、コレステロールの低下作用があるとされ、ダイエット茶としても人気です。
バター茶(チベット)

バター茶は、発酵させた黒茶にバター(主にヤクの乳)と塩を加えたスープのような飲み物で、高地の寒冷地帯に住む人々の貴重なエネルギー源です。
高カロリーですが、脂質と塩分で体温を維持し、また消化を助けるとされます。
アイラグ(モンゴル)

アイラグは馬の乳を自然発酵させて作る遊牧民の伝統的な酒です。
低アルコールながら乳酸菌やビタミン、ミネラルが豊富で、夏の栄養補給や体力維持に用いられます。さっぱりとした酸味が特徴です。
南アジアの発酵食品
南アジアでは、乳製品や葉物野菜、スパイスを使った発酵食品が多く見られます。
インドのヨーグルト「ダヒ」や、漬物に似た発酵食品「アチャール」、ネパールの発酵青菜「グンドゥルック」など、過酷な気候に適応した発酵知恵が詰まっています。
これらの食品は、消化を助けるだけでなく、腸内環境や免疫にも良い影響を与えるといわれています。
ダヒ(インド)

ダヒはインド式のヨーグルトで、牛乳を自然発酵させて作ります。
カレーやビリヤニの付け合わせとして、あるいはラッシーにして飲用されます。
プロバイオティクスが腸内フローラを整え、暑い地域での整腸・免疫機能向上に役立つとされます。
アチャール(インド・ネパール)

アチャールはスパイスと塩、油を使って野菜や果物を漬け込む南アジアのピクルスです。
唐辛子やマスタードの風味が効いており、食欲増進の効果もあります。
長期保存が可能で、料理の味を引き立てる役割も果たします。
グンドゥルック(ネパール)

グンドゥルックは葉野菜を発酵・乾燥させて作る保存食品で、ネパールの山間地域で広く利用されます。
アチャールの一種として分類されることもあり、スパイスと和えて漬物として食べられることも。
乳酸発酵により酸味があり、腸内環境の改善や保存性向上に役立っています。
ホッパー(スリランカ)

ホッパーは、発酵させた米粉とココナッツミルクの生地を、薄く丸く焼いて作るスリランカの発酵パンケーキです。
中央がふんわり、縁がパリッとした独特の食感で、甘くも辛くも味付け可能。
炭水化物と乳酸菌のバランスにより、消化しやすい朝食や軽食として人気です。
アジア各地の発酵食品文化のちがいとは?微生物と文化の関係
アジア各地の発酵食品には、気候、材料、技術、宗教といった背景が大きく関係しています。
例えば、温暖湿潤な東南アジアでは魚の発酵、乾燥したモンゴルでは乳の発酵、宗教や気候により肉をあまり使わない地域では、豆や野菜を活かした発酵食品が発展しました。
こうして見ると、発酵食品は単なる調味料や食材ではなく、アジアの文化そのものともいえることがわかります。
日本の麹菌はなぜすごい?発酵大国の秘密

では次に、日本の発酵食品についてみてみましょう。
味噌、醤油、日本酒──これらはどれも、日本人にとってなじみ深い発酵食品です。
そして、それらの味や香りの鍵を握るのが「麹菌(こうじきん)」です。
世界にはさまざまな発酵文化がありますが、その中でも日本で独自に育まれてきた麹菌──とくにニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)は、毒素を産生しない安全性と高い機能性から、世界的にも注目されています。
ここでは、日本の麹菌がなぜ特別なのか、その背景と魅力を紐解いていきましょう。
麹菌はなぜ毒を出さない?世界にない特別な菌
微生物の中には、人間にとって有益なものもいれば、有害な毒素を生み出すものもいます。
なかでも、アスペルギルス属(Aspergillus)というカビの一群は、世界中に広く分布し、食品の腐敗や強力なカビ毒を生み出す毒性の高い微生物群のひとつとして知られています。
ところが日本では、このアスペルギルス属の中から、毒素を産出しない特別な菌である「ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)」が長年にわたり発酵食品に利用され、安全で有益な微生物として根付いてきました。
この菌は非常に繊細で、他の菌が入り込まないように麹室(こうじむろ)などで厳密な環境管理が行われてきました。 科学的にも毒素遺伝子の欠失が確認されており、味噌・醤油・日本酒などの製造に欠かせない存在です。
こうした安全性と有用性の高さから、ニホンコウジカビは2006年に日本醸造学会によって「国菌(こっきん)」に指定され、日本の発酵文化を象徴する存在となっています。
麹菌が支える日本の味|味噌・醤油・日本酒の秘密
麹菌の力が発揮される代表的な食品が、味噌・醤油・日本酒です。
これらの発酵食品では、麹菌が以下のような役割を果たします:
- でんぷんをブドウ糖に分解(糖化)
- たんぱく質をアミノ酸に分解(うま味生成)
- 香りや風味の成分を生み出す
たとえば日本酒では、「米+麹+酵母」の三重奏によって、やわらかな甘みと香りが生まれます。
味噌や醤油でも、麹菌が素材を深く分解し、複雑なうま味成分や芳醇な香りを引き出してくれるのです。
こうした製法は、世界のどの地域にも見られない、日本独自の高度な発酵技術といえます。
国菌としての誇りと文化的背景
麹菌は単なる食品加工の微生物ではなく、日本人の美意識や職人文化と深く結びついた存在です。
たとえば、麹は「米に花が咲いたような見た目」から、古くは「糀(こうじ)」と書かれ、美的な表現としても親しまれてきました。
また、「一子相伝の麹づくり」や「蔵付き菌」といった言葉に表れるように、土地や人との結びつきを大切にする文化の象徴でもあります。
私たちが普段あまり意識しない存在かもしれませんが、麹菌はまさに「見えない国宝」ともいえる存在なのです。
おわりに|テンペから広がるアジアの発酵文化の魅力
インドネシアのテンペを出発点に、アジア各地の発酵文化を見てきました。
発酵は、保存技術であると同時に、気候・宗教・暮らしが重なり合って生まれた文化のかたちです。
たとえばインドネシアでは、イスラム教の影響で肉が限られる食生活のなか、植物性タンパク源としてテンペが発展しました。
一方、日本では四季の変化と湿度の高い気候のもと、麹菌を巧みに利用した味噌・醤油・日本酒の文化が築かれました。
こうした発酵文化を支えているのが、「菌」と呼ばれる微生物たちです。
国によって使われている菌も異なれば、食べ物の風味や性質も変わります。
テンペ菌・納豆菌・麹菌のちがい(比較表)
| 微生物 | 発酵食品例 | 主な性質 | 匂い・食感の特徴 | 好む環境 |
|---|---|---|---|---|
| テンペ菌 (Rhizopus) | テンペ(インドネシア) | 糸状菌(カビ)/高温発酵 | 臭み少なめ、かたまりやすい | 熱帯・湿潤 |
| 納豆菌 (Bacillus subtilis) | 納豆(日本・中国北部など) | 細菌(枯草菌)/酵素活性が強い | 粘り・匂いが強い | 中温帯でも可 |
| 麹菌 (Aspergillus oryzae など) | 味噌・醤油・日本酒(日本) | 糸状菌/毒素を出さない | うま味が強く、粘りなし | 通気性のある湿潤環境 |
最近では、テンペをはじめとする発酵食品が「腸活」や「プラントベース」の観点から注目され、日本の食卓でも手軽に手に入るようになってきました。
大豆が菌と出会って変化するように、私たちの食卓や暮らしも、菌との出会いによって育まれてきた文化なのです。
この記事がアジアの発酵文化を理解するきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
▶参考文献
- 小倉ヒラク『発酵文化人類学』2017. 木楽舎
- 小倉ヒラク『アジア発酵紀行』2023. 文藝春秋
- 横山智編著『世界の発酵食をフィールドワークする』2022. 農山漁村文化協会
- ferment books著『発酵はおいしい!-イラストで読む世界の発酵食品-』2019. パイインターナショナル











