シンガポールの大人気紅茶ブランドTWG Teaをご存知でしょうか。
TWG Teaは、その茶葉のおいしさと香りの良さもさることながら、種類の多さ、おしゃれなパッケージデザイン、高級感のある100%コットンのティーバッグなど、魅力がたくさんの紅茶ブランドです。
TWG Teaの創業は2008年と新しく、瞬く間にシンガポールだけでなく世界中で大人気のお茶ブランドとなりました。
ブランドのロゴには「1837」と表記されていますが、これは創業年ではなくシンガポールに商工会議所が設立されて貿易基地となった年です。
TWG Teaは、2008年に香港在住のインド人がシンガポールで創業したのが始まりです。
TWG Teaの茶葉はシンガポール産ではなく、世界中から集めた最高品質のお茶をシンガポールでブレンドしています。
一方、地元シンガポールの人たちは、普段は紅茶や烏龍茶を日常的によく飲んでいます。
TWG Teaのような高級ティーサロンもありますが、中国系シンガポール人が多いことから中国茶を本格的に楽しめる茶芸館もあります。
そしてもっと日常的に地元民がお茶を楽しんでいるのは、ホーカー(シンガポール屋台)です。ここで紅茶をオーダーすると、コンデンスミルクがたっぷり入った甘い紅茶(Teh)が出てきます。
では、アジアの他の地域ではどんなお茶がどのように飲まれているのでしょうか。
この記事ではアジアの様々な地域でのお茶事情を紹介しています。
↓アジアのコーヒー事情についてはこちらの記事でご紹介しています。
アジアのお茶の歴史

お茶はアジアから始まりました。
お茶の木の原産地は、中国の雲南省南部から四川省にかけての高原一帯のあたりだと言われています。
もともと地元の住民が食べたり飲んだりしていたお茶を漢民族が自分たちの文化に取り入れ、唐の時代にはお茶は国民的な飲み物になりました。
宋までの時代の中国のお茶は、すべて「固形茶」でした。固形茶とは、摘み取った茶葉を蒸して加熱し、搗いて圧縮して乾燥させた円盤状あるいは四角のお茶です。
固めることでカビが生えにくくなり保存や輸送にも便利なため、通貨として使われた時代もありました。
チベットや日本にお茶が伝えられた時もこの「固形茶」が伝わりました。
その後、明の時代になると茶が蒸製から釜炒り製法に代わり、「散茶」という固めないタイプのお茶になりました。これにより、ウーロン茶や紅茶など様々な発酵段階のお茶が作られるようになりました。
17世紀にはヨーロッパにもお茶が伝わり、当初は緑茶が、そして徐々に紅茶が中国から大量にヨーロッパへ輸出されるようになりました。
そんな中、イギリスが植民地インドで紅茶の栽培に成功し、力強い風味の英国式紅茶が生まれました。
オランダ植民地のインドネシアでも紅茶プランテーションが始まり、アメリカを含む西欧各国で紅茶が本格的に広まっていきました。
アジア各国のお茶事情
それでは具体的にアジアの各国のお茶はどのような歴史を持ち、どのように飲まれているかを知るために、アジア各国のお茶事情をのぞいてみましょう。
日本のお茶
日本では、奈良~平安時代初期に空海や最澄などによって固形茶が持ち帰られた記録が残っています。
本格的に日本にお茶が根付いたのは鎌倉時代で、栄西が留学先の中国から茶の種を持ち帰るとともにお茶の飲み方も伝えたとされています。そのお茶の飲み方は「末茶」といい、固形茶を崩してひいた粉にお湯を注いでかき混ぜて泡立てて飲むものでした。
ここから発展したものが、現在でも2つの飲み方として日本に残っています。
それが「抹茶」と「ブクブク茶」です。
- 抹茶
鎌倉時代に伝わった「末茶」の飲み方は中国ではやがて消滅しますが、日本で独自に発展し、16世紀頃には千利休によって洗練され、「茶道」という一つのスタイルが確立されました。
現在の抹茶は固形茶から作るのではなく、新芽を蒸して乾燥させた茶葉をすりつぶした緑色の粉をお湯で溶いて泡立てます。若干の違いはありますが、「末茶」の飲み方を今に残しているといえます。
ちなみに日本で一般的に飲まれている緑茶である「煎茶」は、抹茶の製法をもとに開発されたものです。庶民に広く飲まれるようになったのは実は戦後になってからという、比較的新しい飲み方です。
- ブクブク茶
沖縄などで今でも飲むことができる「ブクブク茶」も、鎌倉時代に伝わった飲み方の名残ではないかと考えられます。使用する茶葉の種類は違いますが、出来上がりの形は鎌倉時代に伝わったものとほとんど同じです。
ブクブク茶は、炒った米と番茶やジャスミン茶などを茶せんで泡立て、上に大麦粉や豆などをのせて作ります。
中国でも、かつて庶民は泡立てたお茶にスパイスや炒り米や栗などを入れて飲んでいました。
沖縄だけでなく、富山の「ばたばた茶」、松江の「ぼてぼて茶」など、ブクブク茶と似た作り方のお茶が残っている場所が離れた地域に点在していることからも、かつては全国的に見られた飲み方なのではないかとも考えられます。
チベットのお茶

チベットのお茶であるバター茶は、7世紀に中国から伝わった飲み方がそのまま現在でも残っているものです。
7世紀頃に雲南に存在した王国はチベットと交流があり、雲南の茶とチベット遊牧民の馬を交換していました。このお茶を運んだ道を「茶馬古道」といい、7世紀から20世紀まで使われていました。
バター茶に使われるのは、中国の雲南地方や四川地方で作られる固形茶のうち、後発酵させて作るプーアル茶です。チベットなどの遊牧民の食事は乳製品や肉が中心だったので、ビタミン補給や消化に良いお茶を求めていました。
バター茶は、煮出したお茶にヤクのバターを加えて攪拌したものに塩を入れて作ります。お茶というよりも、どちらかというとスープに近い味わいの飲み物です。
タイのお茶

タイではお茶の栽培はおもに北部で行われており、紅茶、烏龍茶、緑茶など様々な種類のお茶が作られています。
なかでも、タイ北部のメーサロンという場所は、上質な烏龍茶の産地です。
メーサロンでは、数千人いる中国国民党軍の子孫の中国系住民が茶を栽培しています。
第二次世界大戦後、中国共産党との内戦に敗れて雲南省に逃れた国民党軍の一部は、そこからビルマ、さらにタイ北部のメーサロンへたどり着きました。そしてメーサロンの気候が茶栽培に適していたことから、1970年代からは茶の栽培を始めました。
いずれは中国を奪還することを想定し、メーサロンを仮の住処と考えていたメーサロンの国民党軍でしたが、その望みもなくなり、1980年代にはタイ国民になることを条件に武装解除して投降しタイ国籍を取得しました。
メーサロン産のお茶は高級烏龍茶として主に海外に輸出されています。メーサロンの烏龍茶は非常に香り豊かな上級品で、台湾で「工夫茶」として飲まれている烏龍茶と非常に近いです。
一方、タイで最も一般的なお茶の飲み方は、重発酵させた紅茶でつくるアイスミルクティーです。コンデンスミルクを加えてとても甘くして飲むのが好まれています。
ミャンマーのお茶
ミャンマーでは、日常的な飲み物といえばコーヒーよりも紅茶です。
ミャンマーの紅茶は「ラペ・イエ」といって、インドのチャイとほとんど同じ方法で作られる煮出しミルクティーです。
ミャンマーはインドやバングラデシュと地続きで、過去にはイギリス領インド帝国の中にビルマ州として組み入れられたこともあり、インドやバングラデシュの文化の影響が多くの面でみられます。
ただインドと違うのは、お店でラぺ・イエを注文すると、必ず「ラペ・チャウ」というビルマの番茶がセットで出てくること。ちなみに、タイやベトナムでもお店でコーヒーを注文すると口直しのお茶(蓮茶や烏龍茶)がセットで付いてくるので、この点はインドではなく東南アジア文化の影響でしょう。
ミャンマーのお茶は、北部のシャン州という地域の山地で主に作られています。ミャンマー国内で多く飲まれている煮出し紅茶のラペ・イエや、口直しの番茶ラペ・チャウの茶葉のほとんどがシャン州で作られ、ミャンマー全土へ出荷されています。
マレーシアのお茶

マレーシア名物のお茶といえば「テタレ」があります。
「引っ張るお茶」という意味のテタレは、ブクブクと泡立った濃厚なミルクティーです。
濃く抽出された紅茶に練乳と砂糖を加え、二個のカップを使って高い位置から引き延ばすようにしてもう一方のカップに移し替える作業を何度も繰り返すと、テタレの出来上がりです。マレーシアに多くいるインド系の人が営むレストランやコーヒーショップで飲むことができます。
またマレーシアには、キャメロンハイランドという紅茶の一大産地があります。
キャメロンハイランドで作られるお茶の中でも、 1929年創業の「BOH TEA」というマレーシア最大の紅茶ブランドのお茶は、マレーシア王室、さらにはイギリス王室でも愛飲されています。
「BOH TEA」は、高価格帯のものから、スーパーでも買うことができる手頃な価格帯のものまで種類が豊富です。マレーシアらしいデザインやフレーバーのラインナップもあり、マレーシアの定番のお土産でもあります。
インドネシアのお茶
コーヒー生産でも有名なインドネシアですが、オランダ領時代にお茶の栽培も行われました。
一時はインドやセイロン(スリランカ)と並ぶほどの産地でしたが、戦後はいったん茶栽培は衰退します。そして、1958年頃から再びジャワ島を中心に生産が再開され、今では世界有数の茶葉の生産国となっています。
インドネシアの紅茶の特徴は、クセが少なくすっきりとしていて食事に合うこと。濁らないので、アイスティーにも最適です。
単独で飲むにはコクが足りないと感じられることもあり、ブレンド紅茶に使われることが多いです。
日本で昔から見かける「ジャワティー」は、そんなインドネシア産紅茶の特色を生かして、「食事に合うテーブルドリンク」というブランディングで登場した商品でした。
インドネシアの中でもジャワ島では特に甘い飲み物を好む人が多く、紅茶を飲むときもお砂糖をたっぷり入れて飲むことが多いです。人にもよりますが、ミルクは入れず、砂糖入りのストレートティーで飲む人が多いようです。
まとめ
アジアではお茶の生産がさかんですが、地域により愛飲されているお茶の種類は異なり、飲み方の好みもそれぞれ全く異なります。
同じカメリア・シネンシスの木から作られたお茶も、アジアのそれぞれの地域の気候、生活習慣、嗜好、歴史などいろいろな要素が影響し、これほどまでに豊かで多彩なアジアのお茶文化をみることができるのです。
現在では世界の様々な種類のお茶を飲むことができますが、そのお茶の形にたどり着くまでの物語に思いを馳せてみるのもおもしろいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献:
- 森下ヒバリ『タイのお茶 アジアのお茶』2008. ビレッジプレス
- トム・スタンデージ『世界を変えた6つの飲み物』2007. インターシフト







