「カレー」はインドなどの南アジアだけでなく、アジア各地で独自の進化を遂げてきました。
その中でも、東南アジアのカレーは、スパイス中心のインドカレーとは違い、ハーブとココナッツミルクの香りで人々を魅了します。
そんな疑問を持つ人のために、この記事では、インドカレーとの違いを出発点に、東南アジアカレーの魅力をわかりやすく紹介します。
国ごとに独自の食文化を反映している東南アジアのカレー文化を知ることで、「もうひとつのカレー世界」が見えてきます。
インドカレーと東南アジアカレーの違い|スパイス vs ハーブ
同じ「カレー」という名前でも、インドと東南アジアでは根本的に考え方が違います。
両者の違いを一言で言えば、インドはスパイスの文化、東南アジアはハーブの文化です。
東南アジアのカレーは、乾燥スパイスで重層的な風味をつくるインドカレーとは異なり、フレッシュハーブとココナッツを軸にした軽やかで香り豊かなスタイルです。
湿潤な気候のもとで育つ生ハーブをふんだんに使うため、唐辛子のシャープな辛さにハーブの爽快感が重なり、すっきりした後味に仕上がります。
とくにタイカレーはその代表で、青唐辛子やハーブの鮮烈な香りが際立ちます。
東南アジアカレーの代表は、やっぱりタイ

東南アジアの中でも、インドカレーとの違いを最も鮮烈に示すのがタイカレーです。
見た目や「カレー」という呼び名から、インドカレーの流れを汲むように思われがちですが、実際にはその成り立ちも味わいも大きく異なり、一線を画す独自性を持っています。
そんなタイカレーが「東南アジアカレーの代表」と呼ばれるほど特別である理由をみてみましょう。
タイのカレーが特別な理由|植民地化されなかった国の味
タイのカレーが特別なのは、単なる料理の技術だけではなく、その歴史的背景にあります。
タイは東南アジアの中で数少ない「植民地化されなかった国」でした。
植民地化を逃れたタイ王国では、王宮料理の伝統と熱帯の自然が融合し、長い時間をかけて独自の香りと味わいが生み出されました。
外来の支配を受けずに独自の食文化を守り続け、他の地域にはない繊細で美しいカレー文化が育まれたのです。
植民地化されなかったことで守られた独自の料理文化
19〜20世紀、周辺の国々が次々と欧米列強の植民地となる中、タイ(旧・シャム)は独立を守り抜きました。
植民地支配を受けた周辺国では、宗主国の食文化が強く影響しましたが、タイでは王宮料理や地方の伝統料理が絶えることなく継承され、外来の影響を受けつつも自国文化を主体的に発展させることができました。
これにより、インドや中国の要素を取り入れながらも「タイ独自のカレー」が確立されたのです。
王宮料理が育んだ美しさと繊細さ
タイの宮廷では、料理は単なる食事ではなく「美の表現」とされました。
色彩のバランス、香りの調和、辛さのコントロールなど、王宮料理の美意識がタイカレーに反映され、見た目にも美しく、味わいも繊細な料理へと昇華しました。
インドの「スパイスの力強さ」に対し、タイのカレーは「辛さ・香り・彩りの優雅さ」で勝負しています。
スパイスではなく「香りのハーブ」
インドカレーがスパイス(乾燥香辛料)を炒めて香りを引き出すのに対し、タイカレーは、生のハーブをすりつぶして作る「香味ペースト(ナムプリック)」が基本です。
レモングラス、ガランガル、こぶみかんの葉、コリアンダーの根など、植物そのものの香りが生きたフレッシュな辛さが特徴です。
これにより、爽やかで立ち上がりの早い香りが特徴となり、食べる人に強い印象を残します。
ココナッツミルクが生むまろやかさ
タイカレーのもう一つの特徴は、ココナッツミルクの存在です。
スパイスの辛さを包み込み、全体をまろやかに仕上げることで、「辛いのにやさしい」という独特の味わいが生まれます。
この絶妙なバランス感覚こそ、東南アジアのカレーを象徴するものです。
タイの代表的なカレーを紹介
タイカレーには多彩な種類があり、それぞれに独自の香りや辛さがあります。
ここでは、代表的なタイカレー6種類を紹介し、辛さ・香り・食べやすさを★評価で示します。
グリーンカレー(Kaeng khiao wan)

- 辛さ:★★★★★
- 香り:★★★★★
- 食べやすさ:★★★☆☆
青唐辛子の強烈な辛さに、バジル・レモングラス・こぶみかんの葉などの爽やかな香りが重なる、最も“タイらしい”王道カレー。
辛さは強めだが、甘みとココナッツのコクでバランスが良い。
日本のタイ料理店では辛さ控えめに調整されることも多い。
レッドカレー(Kaeng phet)

- 辛さ:★★★★☆
- 香り:★★★★☆
- 食べやすさ:★★★☆☆
赤唐辛子の鮮やかな色と鋭い辛さが特徴。
ココナッツミルクでまろやかに仕上げながらも、しっかり辛いのが魅力。
辛い料理が好きな人向けの一品。
※本場ではグリーンより辛さ控えめのことも多い。
イエローカレー(Kaeng kari gai)

- 辛さ:★★☆☆☆
- 香り:★★★☆☆
- 食べやすさ:★★★★★
ターメリックの香りとマイルドな味わいが特徴の家庭料理寄りの味わい。
意外にも、現地タイではマイナーなカレー。
マッサマンカレー(Kaeng massaman gai)

- 辛さ:★☆☆☆☆
- 香り:★★★★☆
- 食べやすさ:★★★★★
イスラム商人の影響を受けた、タイ南部発祥の“外来系タイカレー”。
シナモンやカルダモンが効いた、“中東×タイ”のハイブリッド。
辛さはほとんどないが、濃厚でコク深く、ナッツやスパイスの香りが豊かで、世界的にも人気が高い。
ゲーン・ハンレー(Kaeng hung lay)

- 辛さ:★★☆☆☆
- 香り:★★★★☆
- 食べやすさ:★★★☆☆
ミャンマーの影響が強い北タイの影響を受けた、豚のスパイス煮込み。
タマリンドの酸味と生姜、にんにく、スパイスが効いた独特の風味で、辛さは控えめ。
カオソーイ(Khao soi)

- 辛さ:★★★☆☆
- 香り:★★★★★
- 食べやすさ:★★★★☆
チェンマイ名物のカレー麺。
ココナッツミルク入りのカレー風味スープに卵麺を合わせ、揚げ麺をトッピングする独特の料理。
辛さは控えめで、香りが豊かで食べやすく、観光客にも人気。
タイ以外の東南アジアカレー|国別の違いと特徴
東南アジアには、タイ以外にも様々なカレー料理があります。
国ごとに香りの中心となるハーブやスパイス、ココナッツミルクの使い方が異なるため、味の個性も大きく変わります。
ここでは東南アジア各国の代表的なカレーについて、辛さ・香り・食べやすさを★評価しながら特徴をまとめました。
各国の食文化が生んだ、多様で奥深い東南アジアのカレーの世界が見えてきます。
カンボジアのカレー|蒸し料理とココナッツが育てた穏やかな味
カンボジアはアンコール王朝以来、インドシナ半島の交易拠点として多様な食文化を受け入れてきました。
隣国タイの影響を受けながらも、タイのような強い辛味は少なく、ココナッツ+ハーブ+蒸し料理が際立つのが特徴です。
仏教儀礼や祝祭で供される「蒸し料理」を重視する点が独特で、家庭料理では植民地期に導入された野菜や調理法も取り入れられています。
アモック(Amok)

- 辛さ★★☆☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★★☆
魚をココナッツミルクとカレー風味で蒸した料理。
香りが豊かで、タイ・ラオスの影響がありつつも、辛さはかなり控えめ。
ソムロー・カリー(Samlor kari)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★☆☆
- 食べやすさ★★★☆☆
牛肉や鶏肉、アヒル肉とともにじゃがいもや人参を煮込んだ家庭的なカレー。
タイの影響を受け、ハーブを多用した香り豊かで濃厚な味。
正月や祝いの日に食べることが多い。
ラオスのカレー|もち米とハーブが育む独自の食文化
ラオスはタイと文化的に近いですが、フランス植民地期の影響が限定的だったため、より素朴で農村的な食文化が残っています。
もち米が主食であるため、汁気のある料理が多いです。
カレーも米麺やハーブ煮込みと結びつき、辛さよりも自然な香りを重視する傾向があります。
カオプーン(Khao poon)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★☆☆
- 食べやすさ★★★★☆
ココナッツミルクを使った米麺カレー。
辛さは中程度で、もち米文化と相性が良い。
オーラム(Or lam/Orlam)
- 辛さ★★☆☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★☆☆
ハーブを煮込んだスープ状の料理。
カレーというより「ハーブ煮込み」に近く、素朴な風味。
ベトナムのカレー|フランス・中国・タイの融合
ベトナムは長い中国支配とフランス植民地期を経て、食文化が多層的に融合しました。
バゲットとカレーを合わせる習慣はフランス文化の影響であり、香辛料の使い方には中国的要素が見られます。
タイから伝わったハーブやココナッツも加わり、全体的に辛さは控えめで、香り豊かな独自のスタイルが生まれました。
カリーガー(Cà ri gà)

- 辛さ★★☆☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★☆☆
鶏肉を使ったベトナム風カレー。
かぼちゃや玉ねぎなど甘味のある野菜が入ることが多く、バゲットと食べるスタイルが特徴。
ターメリック・コリアンダーなど穏やかなスパイスが中心。
ボー・コー(Bo Kho)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★☆☆
牛肉を香辛料とハーブでじっくり煮込んだベトナム風ビーフシチュー。
フランスの煮込み技法に、ベトナム独自のスパイスとヌクマムが融合。
マレーシアのカレー|民族ごとのスタイルが重なる複合系
マレーシアはマレー系、インド系、中華系が共存する多民族国家であり、食文化もその融合を色濃く反映しています。
植民地期にインド系移民がもたらしたスパイスの強烈な風味と、中華系の麺料理や調理法が組み合わさり、複雑で層の厚いカレー文化が形成されました。
祝祭や宗教行事でもカレーは重要な役割を果たし、民族ごとの食習慣が交差する場面で象徴的に登場します。
カリアヤム(Kari ayam)

- 辛さ★★★★☆
- 香り★★★★★
- 食べやすさ★★★★☆
マレー系の代表的な鶏カレー。
スパイスがしっかり効き、香りが豊か。
バナナリーフカレー(Banana Leaf Curry)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★☆☆
南インド系のスパイシーなカレーを、バナナの葉の上に盛りつけて食べるマレーシアのインド系代表料理。
南インド出身の移民文化の影響で生まれたスタイルで、カレー、野菜、漬物、パパダムなどが一皿に並び、多民族国家マレーシアを象徴する一品。
シンガポールのカレー|多民族社会を象徴する融合料理
港湾都市として発展したシンガポールには、インド系・中華系・マレー系など多様な民族が集まりました。
その結果、カレーは「共食文化」を象徴する料理として広まり、異なる民族の食材や調理法が自然に融合しました。
家庭や屋台、レストランにおいても多文化的なアレンジが見られ、地域やコミュニティごとに味わいが異なるのが特徴です。
フィッシュヘッドカリー(Fish head curry)

- 辛さ★★★★☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★☆☆☆
魚の頭を煮込んだ豪快なカレー。
インド系+中華系の融合料理で、辛さと旨味が強烈。
ラクサ (Laksa)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★★☆
- 食べやすさ★★★☆☆
カレー風味の麺料理で、ココナッツミルクのまろやかさと辛さが共存。
隣国マレーシアでも人気だが、マレーシアよりもさらに濃厚でスパイシーな傾向。
“カトンラクサ”が特に有名。
インドネシアのカレー|濃厚で力強い味わい
インドネシアは古くから香辛料貿易の中心地であり、外来のスパイス文化が土着の食習慣と結びついて独自のカレー文化を育みました。
オランダ植民地期を経て多様な食材や調理法が導入され、祝祭料理では共同体の絆を象徴する濃厚で力強いカレーが発展しました。
一方で、日常的な食卓では地域ごとに軽やかなスタイルが広がり、庶民的な料理として親しまれています。
ルンダン(Rendang)

- 辛さ★★★★★
- 香り★★★★★
- 食べやすさ★★☆☆☆
牛肉を長時間煮込んだ濃厚なスパイス煮込み。
世界の美食ランキングで1位を取ったことがある(CNN Travel)。
ソトアヤム(Soto ayam)

- 辛さ★★☆☆☆
- 香り★★★☆☆
- 食べやすさ★★★★★
ターメリックが効いた鶏肉のスープカレー。
軽やかで食べやすく、日常的に親しまれる。
春雨やビーフン、ご飯を加えて食べることも多い。
ミャンマーのカレー|油と魚醤の旨味を生かす
ミャンマーはインド、中国、タイの文化が交差する場所で、油を多用する調理法はインド的要素、魚醤の旨味は東南アジア的要素を反映しています。
植民地期にイギリスが導入した食材も加わり、濃厚で独特なカレー文化が形成されました。
ウェッターヒン(Wat thar hin)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★☆☆
- 食べやすさ★★★☆☆
豚肉を油で煮込んだカレー。
辛さ・香りとも中程度で、魚醤の旨味が効いた独特の風味。
ミャンマーチキンカレー(Kyet thar hin)

- 辛さ★★★☆☆
- 香り★★★☆☆
- 食べやすさ★★★☆☆
鶏肉とスパイスの煮込み。
油のコクと魚醤が効いた家庭料理で、油が多めで濃厚な味わい。
東南アジアおすすめカレーランキング|辛さ・珍しさ・食べやすさで選ぶ
ここでは、「辛い」「珍しい」「初心者向け」など、目的別に東南アジアカレーをランキング形式で紹介します。
旅行者や食文化ファンにとって、どのカレーを試すべきかが一目で分かるガイドです。
辛いカレーランキング(TOP3)
| グリーンカレー (タイ) | ココナッツミルクが入るため濃厚だが、タイカレーの中で刺激は最も強い 本場では、青唐辛子(プリッキーヌ)が加わりさらに辛い |
| レッドカレー (タイ) | 赤唐辛子の力強い辛さが際立つ グリーンよりは辛くないが、香りの複雑さや油分は強め |
| ルンダン (インドネシア) | 牛肉を長時間煮込み、辛さと旨味が凝縮された濃厚で重厚な料理 地域差が激しく、パダン料理のルンダンは激辛 |
上級者におすすめ!クセが強いカレーランキング(TOP3)
| フィッシュヘッドカリー (シンガポール) | 魚の頭が豪快に煮込まれ、見た目のインパクトと旨味が唯一無二 見た目は奇抜だが、味は割と食べやすい |
| アモック (カンボジア) | 「蒸すカレー」は東南アジアでも非常に珍しい スープ系が多い東南アジアの中で、プリン状に固まるのが特徴 |
| ゲーンハンレー (タイ) | ミャンマーのカレー(ヒン)の影響を受けた独特な風味 タマリンドの酸味が強く、唐辛子の辛さは控えめ スパイスの香りを楽しむタイプ |
初心者におすすめ!食べやすいカレーランキング(TOP3)
| イエローカレー (タイ) | 具はじゃがいも・鶏肉が定番で、日本人に馴染みある具材のマイルドなカレー 辛さ控えめで、タイカレーの入門に最適 |
| マッサマンカレー (タイ) | 甘みとナッツの香ばしさが特徴 辛さほぼなく、世界的にも人気 |
| ソトアヤム (インドネシア) | 鶏の黄色いスープでカレー感は薄め 軽やかで日常的に食べやすい |
家で楽しむ東南アジアカレー|購入方法とレシピ本紹介
東南アジアカレーは、店舗やオンラインで購入できるペーストやレトルトを使えば家庭でも楽しめます。
料理初心者でも気軽に「もうひとつのカレー世界」を味わえます。
オンラインで購入できるタイカレー
オンラインで購入できるタイ以外の東南アジアカレー
まとめ|インドカレーとの違いから見る東南アジアカレーの魅力
東南アジアのカレーは、インドカレーの「スパイスの科学」とは異なる独自の発展を遂げました。
レモングラスやバジルなどの香り豊かなハーブ、ココナッツミルクのまろやかさを活かし、軽やかで鮮烈な味わいを生み出しています。
タイをはじめ、カンボジア・ラオス・ベトナムではタイの影響を受けた香り豊かなカレーが広がり、マレーシア・シンガポール・インドネシア・ミャンマーでは多文化が融合した独自のカレーが発展しました。
インドカレーが「スパイスの科学」なら、東南アジアカレーは「ハーブの香りと自然の恵み」。
同じ「カレー」でも、国ごとに辛さ・香り・食べやすさは大きく異なります。
そんな東南アジアには、インドカレーとは違う「もうひとつのカレー世界」が広がっています。
旅行やアジア料理を楽しむ際には、その多様性を味わい、国ごとの違いを楽しんでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事が、アジアのカレー文化を深く知るきっかけになれば幸いです。



参考文献:
- 地球の歩き方編集室『世界のカレー図鑑 101の国と地域のカレー&スパイス料理を食の雑学とともに解説』2022. Gakken
- ハウス食品株式会社監修『世界のカレー図鑑』2019. マイナビ出版







