経済成長が進むアジアでは、女性の社会進出が急速に進んでいます。
しかし、その速度や形は国によって大きく異なります。
本記事では、世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数」など国際的な指標をもとに、アジア各国の女性の社会進出状況を比較し、最も進んだ国と課題を探ります。
こうした点について、文化・政治・教育の観点から読み解いていきましょう。
アジアの女性の社会進出の現状
ここでは、世界経済フォーラムの『ジェンダーギャップレポート』を参照し、男女間格差についてみていきましょう。
ジェンダーギャップレポート2022
ジェンダーギャップレポート(Global Gender Gap Report)とは、スイスの非営利財団である「世界経済フォーラム」が毎年公表している報告書です。
報告書では、男女格差を図るための指標である「ジェンダーギャップ指数」に基づいたランキングを公表しています。
ジェンダーギャップ指数は「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータに基づいて算出され、男性の指数を1とした時の女性の割合を表しています。
0が完全不平等、1が完全平等を表します。
2022年のジェンダーギャップレポートにおけるジェンダーギャップ指数の1-20位までのランキングは下記のとおりです。

Global Gender Gap Report 2022をもとに筆者作成
20位までのランキングをみると、北欧を中心にヨーロッパの国が多くランクインしていることがわかります。
アフリカやカリブ海からもいくつかの国がランクインしている点は興味深いです。
特に6位のルワンダは、女性議員の比率が世界一です。しかし、その背景には特別な事情があります。
ルワンダは1994年に激しい内戦と大虐殺を経験し、80万人とも100万人ともいわれる人々が亡くなりましたが、そのほとんどは男性でした。そして生き残った人口の大半が女性であったことから、従来は男性が担ってきた職業にも女性が進出せざるを得ませんでした。そのため、ルワンダでは国会議員をはじめ、社会の根幹を担う職業にも多くの女性が進出するようになったのです。
そしてアジアでは、20位以内に唯一フィリピンが19位に入っています。
では、他のアジア諸国のランキングはどうなっているのでしょうか。
次はジェンダーギャップレポートから、アジア地域だけを取り出したランキングをご紹介します。
ジェンダーギャップレポート2022 アジア版
アジア地域(東アジア・南アジア・東南アジア)に限定したジェンダーギャップ指数のランキングは以下のとおりです。

Global Gender Gap Report 2022をもとに筆者作成
改めて、フィリピンがアジアの中でも群を抜いていることがわかります。
アジア2位のシンガポールは、国が積極的に女性の社会進出を呼び掛けてきたこともあり、夫婦共働きが当たり前の社会になっています。家事・育児において他者の手を借りることを当たり前ととらえ、家族の助けを得たり、メイドを雇ったりしながら働き続ける世帯が多く、女性の社会進出も進んでいます。ただし、総合順位は49位となっており、フィリピンにはまだまだ及びません。
また3位のラオス、4位の東ティモールでは農業従事者が人口の7割程度を占めており、職業による男女差が比較的少ない社会といえます。
5位のモンゴルは、家族や地域全体で子供の面倒を見ることが当たり前の社会です。遊牧民的性質も影響しているのか、女性も進学や就職でどんどん外に出ていく傾向があり、特に女性は男性に比べて高学歴化が顕著で、モンゴルでは医師の約6割を女性が占めています。女性の社会進出が進んでいる国の一つといえます。
一方で、このアジア版ランキングでも日本の順位の低さが目立ちます。
中国、韓国、モンゴルそして東南アジアのすべての国よりも低い順位になっています。
日本の場合、「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のうち、「教育」「健康」では男女差がほとんど見られませんが、「経済」「政治」ではかなりの男女間格差がみられます。
その原因は、労働参加率、管理職従事者、国会議員数や閣僚数における男女比の不均衡などが挙げられます。
では次に、アジアトップのフィリピンにおける女性の社会進出の現状はどうなっているのか、詳しく見ていきたいと思います。
フィリピンで女性の社会進出が進んでいる理由

フィリピンではなぜ男女格差が少なく、女性の社会進出が進んでいるのでしょうか?
日本が参考にできる点はあるのでしょうか?
実は、フィリピンが男女格差の少ない社会である根本には、フィリピンが「家族を大切にする社会」であることが大きく関係しています。
一見矛盾するようにみえるかもしれませんが、この「家族を大切にする社会」であることが、結果的に女性の社会進出のしやすさにつながっています。
そんな「家族を大切にする社会」と女性の社会進出とがどう関連しているのか、フィリピン社会の実情を日本と比較しながら詳しく見ていきましょう。
転勤がない
まず日本とフィリピンで大きく違う点として、フィリピンでは遠方への転勤がないことがあげられます。
日本では全国に支店を持つ企業の場合、社員は本社で採用された後に全国へ配属されるスタイルが一般的です。国内や海外への転勤も珍しくありません。
家族がいる場合、転勤は本人だけでなく家族の生活にも大きな影響が及びます。転勤によって夫婦どちらか(多くの場合は女性)がキャリアを中断せざるを得ないケースはよくあります。
一方、フィリピンでは、基本的に遠方への転勤を命じられることはありません。
フィリピンの多くの企業では、社員の採用は本社ではなく地域本部ごとに行います。
そのため、地域本部の管轄内への転勤はあっても、他地域への転勤になることは基本的にはありません。
フィリピン人は社員、雇用主とも家族をとても大切にしているため、社員は家族の近くで働けるような社会システムが自然と出来上がっているのです。
もし望まない地域への転勤が命じられた場合、労働組合を通じて会社へ抗議をすることもあり得るそうです。
そのため、転勤でキャリアが中断されることがなく、家族や親戚の近くに住みながらサポートを得られるため、ライフステージの変化にも対応しやすいといえます。
残業をしない

フィリピン人はあまり残業をしません。
フィリピンでは「残業をする人は仕事ができない」という認識を持つ人が多いです。そのため、男女関係なくできるだけ定時で仕事を終わらせて帰宅し、家族との時間や自分の時間を楽しみます。
定時退社する人が多いので、子育て中のママでも働きづらさがありません。子育て中であろうとなかろうと、残業をしないことは何ら特別なことではないのです。
昇進のチャンスは平等
転勤がなく、残業もしないので、ほとんどは純粋な仕事のパフォーマンスによって昇進が決まります。そのため、フィリピンでは実力があれば性別関係なく昇進できます。
フィリピンのとある会社で人事を担当していた人の話では、フィリピンでは一般的に男性よりも女性の方が仕事のパフォーマンス力が高いと考える傾向があり、女性を積極的に採用することもあるそうです(企業による)。
さらに、フィリピンではLGBTQであっても仕事上で不利になることはほとんどありません。それどころか、「LGBTQの人達は細かいことにもよく気が付く、仕事のできる人が多い」というイメージがあるため、むしろ積極的に採用したがる企業もあるほどです。
フィリピンでは歴代2名の女性大統領がいましたし、政治家、公務員、医師、弁護士などのエリートと言われる職業にも男女差はありません。能力があれば、性差関係なく活躍できるのがフィリピン社会です。
子育てサポートが得やすい

フィリピンでは子育てサポートが得やすく、女性は結婚や出産というイベントを経ても基本的に仕事を辞めることはありません。
具体的には、下記のような形でのサポートがあります。
家族、親族が同居
現在、日本では核家族世帯が全体の80%を超えていますが、フィリピンはまだまだ3世代、4世代で一緒に暮らしている世帯が多いです。家族だけでなく親戚までもが同居または近居していることも少なくありません。
家族と過ごすことを大切に考えているため、進学や就職の際にもできるだけ実家から通えるところを選ぶ傾向があります。
もちろんマニラなどの都心部では核家族化は徐々に進んできていますが、それでもフィリピン全体で見てみると、家族主義は今も健在です。
家族や親族が同居したり近くに住んでいる家庭では、子の面倒を家族や親族に見てもらえるため、子育てを理由に仕事を辞めたり時短勤務をする必要がなく、女性が男性と同じように働き続けることができています。
ベビーシッターサービスの充実
フィリピンでは働く女性が多いため、ベビーシッターの数も多く、比較的安価で利用できます。
ベビーシッターの斡旋会社を通じてサービスを利用することもありますが、個人的な知り合いに依頼して安価な料金でシッターサービスを利用することも一般的です。海外にメイドとして出稼ぎに出るフィリピンは人は多いですが、国内でも同じようにメイドやベビーシッターサービスが普及しています。
ただし、ベビーシッターをめぐるトラブルがないわけではないので、シッターを雇う家庭では安全のために監視カメラを設置することも多いようです。
まとめ
アジアの中で最も男女格差が少なく、女性の社会進出が進んでいるといわれるフィリピンの社会についてご紹介しました。
日本とは異なる点が多々あったかと思います。
フィリピンの場合、高度な仕組みが整っていたり、行政からの手厚いサービスがあるというわけではありません。むしろその逆で、日本よりずっと肩の力が抜けた社会であることがわかりました。
フィリピンが「家族を大切にする社会」であることが、生きやすく働きやすい環境をつくり、それが男女差の少ない社会や女性の社会進出につながったと言うことができそうです。
一方日本は、徐々に変わりつつあるものの、まだまだ「仕事が何よりも重要」だという意識が根強くあります。仕事があらゆるものの中で最も優先されている社会といってもいいかもしれません。
遠方への転勤や出向を命じられれば従わざるを得ず、転勤により家族の進路やキャリアが大きな影響を受けることもあります。
また、夜遅くまで残業することも珍しくなく、子供のいる家庭では妻だけに家事育児のワンオペ負担がのしかかります。
その大変さから、女性がキャリア中断やキャリアダウンに追い込まれる例も少なくありません。
こうした「仕事最優先」の社会慣習が、皮肉なことに(多くの場合)女性の就業を困難にし、就業率、収入、昇進、収入などの面で男女差が埋まらない原因につながっていると考えられます。
ただし、こうした仕事至上主義の社会によって、日本は高度経済成長を達成し、その後に経済的に豊かな時代を迎えたことも事実です。半世紀以上にわたってそうした仕事至上主義の社会が継続された結果、日本は豊かさを手に入れた反面、気づけば少子高齢化のトップを走る国になり、核家族化、都市への人口集中、地方過疎化が進むなど、社会構造は大きく変わりました。
このような価値観を見直す時期にきているのかもしれません。
フィリピンの例も参考にしながら、一人一人が意識を変えていく必要があります。
最後までお読みいただきありがとうございました。女性の社会進出を考える参考にしていただければ幸いです。






