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バリ島の宗教「バリヒンドゥー」とは?インドとの違いも解説

Hinduism in Bali アジアの思想と宗教
アジアの思想と宗教

世界中の観光客を惹き付けてやまないバリ島の魅力の一つは、その独特な文化にあります。

そんなバリ文化に大きな影響を与えているのが、バリ島の宗教です。

人口の90%以上がイスラーム教徒のインドネシアにあって、バリ島では例外的にヒンドゥー教が広く信仰されています。

これには、バリ島特有の歴史的事情が関係しています。

本記事では、バリ島がインドネシアでも珍しく「ヒンドゥー教の島」になった理由や、「バリヒンドゥー」と言われるバリ島独自のヒンドゥー教の特徴について、インドのヒンドゥー教とも比較しながら詳しく解説します。

この記事を読むことで、なぜバリ島が観光客を魅了する一大観光地であり続けるのか、その秘密がきっと見えてきます。

より奥深いバリの魅力を知ってください。



インドネシアでバリ島だけがヒンドゥー教である理由

インドネシアの中にありながら、バリ島ではヒンドゥー教を信仰する人々が多数派なのはなぜでしょうか。

その理由は過去の歴史にあります。

13世紀末からインドネシアではジャワ島を起源とする強大なヒンドゥー教国家「マジャパヒト王国」が勢力を拡大し、バリ島もその支配下に入りました。

しかし16世紀になるとイスラム教を信仰する「マタラム王国」により、マジャパヒト王国は衰退します。

その時にマジャパヒト王国の王族や貴族、僧侶などはバリ島に逃がれました。

もともとバリ島には土着の信仰に加えてインドから伝わった仏教やヒンドゥー教が混在していましたが、マジャパヒトの貴族たちがバリ島へ移ったことで、ヒンドゥー教の影響がよりいっそう強くなりました。

インドネシアの他地域ではイスラム教が勢力を伸ばしていく一方、バリ島はその後もイスラム教勢力の影響をそれほど受けることはありませんでした。

こうした経緯により、バリ島はインドネシアの他地域とは異なるヒンドゥー教の島となったのです。

バリヒンドゥーとは

God in Bali Hinduism

バリ島の宗教は、ヒンドゥー教と仏教、そしてバリ島土着の信仰が融合した宗教です。

インドのヒンドゥー教とも異なる独自の発展を遂げたことから、「バリヒンドゥー」と言われることもあります。

そもそもインドのヒンドゥー教は、紀元前13世紀前後にインドに誕生したバラモン教が、やがて王権と結びついたり、インドの土着の信仰を取り込んだりしながら民衆の支持を得て変貌していった宗教です。

一方、仏教は紀元前6世紀頃にバラモン教のカースト制度などに異を唱えたゴータマシッダールタ(仏陀)によって誕生した宗教です。ただし基本的な部分ではバラモン教がベースになっており、例えば輪廻転生思想などはバラモン教、ヒンドゥー教、仏教すべてに共通する思想です。

インドでは仏教は修行の厳しさなどから徐々に民衆の支持を失い、やがてヒンドゥー教に吸収されていきました。ヒンドゥー教の神々の中には仏陀も含まれていると言われ、ヒンドゥー教自体がすでに仏教と融合した宗教ともいえます。

バラモン教から派生して成立したヒンドゥー教と仏教、そして神々が自然のものに宿ると考えるバリ土着の信仰は、多神教的な性質など共通する点も多かったため、お互いに融合しやすい特徴を持っていたといえます。

こうしたことから、バリ島では複数の信仰が融合したバリ独自の宗教「バリヒンドゥー」が成立しました。

宗教と土着信仰の融合はレアケース

バリ島以外にもアジアの様々な場所では土着の信仰が現在も続いています。

ただし多くの場合、土着信仰は宗教と融合せず、別々に併存しています。通常、宗教への信仰は比較的わかりやすく目に見える形で表れますが、土着の信仰は外部からは一見わかりづらい形でひっそりと信仰されていることが多いです。

土着信仰と宗教が融合しにくいのには、次のような理由が考えられます。

まずイスラム教やキリスト教は一神教であるため、祖先や自然を神として崇める土着信仰と融合することは有り得ません。

また、明確な聖典がある宗教もまた、土着の信仰と結びつくと本来の教義から逸脱してしまうため、融合することは考えにくいです。ただし、仏教を信仰する一部地域では宗教と土着信仰がうまく融合しているというケースもあります。

一方、ヒンドゥー教には信徒共通の明確な教義や聖典はありません。ヒンドゥー教の聖典といわれるものはいくつもありますが、その内容は一貫しているわけではなく、聖典によって矛盾する点もあるなど、他宗教の聖典とは性質が異なります。さらに、ヒンドゥー教は開祖がなく、成立時期もはっきりしていないという非常につかみどころのない宗教なのです。

こうしたことから、ヒンドゥー教が栄えたバリ島では複数の信仰が結びつくことが可能であったと考えられます。



バリヒンドゥーの特徴:インドとの比較から

土着の信仰や仏教、ヒンドゥー教が混ざりあってできたバリヒンドゥーは、インドのヒンドゥー教と比較するとどのような違いがあるのでしょうか。

以下では、インドのヒンドゥー教と比較しながら、バリヒンドゥーの特徴を紹介します。

1. バリヒンドゥーの信仰と儀礼

dance in ceremony

インドのヒンドゥー教とバリヒンドゥーには、信仰や儀礼の違いがあります。

バリでは神々が自然に宿ると考えるため、ヒンドゥー教のシヴァ神やヴィシュヌ神などに加え、祖先や土地の神々も同じく崇拝されます。

特にバリ島最高峰のアグン山は「神々の座」として崇拝されています。

また、バリヒンドゥーは教義よりも慣習を重視する傾向があるため、祭礼などの儀礼は非常に多く、音楽や舞踊も重要な役割を果たしています。「チャナン」というお供え物を飾ることも毎日欠かしません。

インドのヒンドゥー教にはないバリ島特有の祭礼も多くありますが、特に大きな行事には次のようなものがあります。

  • ガルンガン
    210日ごとに先祖や神々の霊がこの世に帰ってくるとされる日。軒先には霊が帰る際の目印となる「べンジョール」という特別な飾りを立てて霊を迎え入れます。当日は村の寺院を参拝してお供えをし、各家庭で親戚たちと過ごします。日本の盆とよく似ています。
  • クニンガン
    ガルンガンの10日後、先祖や神々の霊が再び天界に帰ってゆく日。日本の送り盆と同じような日です。
  • ニュピ
    3~4月にあるバリヒンドゥー教のお正月。「静寂の日」といわれ、ニュピ当日の夜明けから翌日の夜明けまで、観光客も含め全ての人は外出、労働、灯火の使用、殺生などが一切禁じられ、家で断食と瞑想に専念して悪霊が過ぎ去るのを待ちます。

バリ島では共同体の絆が非常に強いので、共同体によって独自に行われる祭礼や儀礼も多いです。

そんなバリ島でも一時期、インドネシアの中央集権的な行政システムが導入され、バリの伝統的な村落共同体の力が薄れた時代がありました。

しかし、2000年前後からインドネシアの政権交代などの影響で地方政府の権限が拡大し、再び共同体の独自性を重視するようになりました。

2. バリのカースト制度

インドでは社会が厳密なカースト制度に基づいて組織されています。公的には廃止されていますが、実際の生活の中ではいまだにその慣習が残っています。

一方、バリにはインドのカースト制度ほど厳密ではありませんが、ゆるやかな階級システムがあります。

バリでは14世紀にマジャパヒト王国が進出した際、複雑な階級制度が導入されました。

さらに20世紀にバリ島一帯がオランダの植民地になると、統治上の利便性からインドのカースト制度を参考にした4つの階層へと階級制度が再編されました。

下記がその4つの階層です。

  • ブラーフマナ(僧侶)
  • サトリア(王族)
  • ウェシア(貴族)
  • スードラ(平民)

バリの場合、上位3階層(ブラーフマナ、サトリア、ウェシア)は人口の約10%に過ぎません。

つまり、バリでは人口のほとんどはスードラ(平民)階級に属しています。

日常生活において階級差が影響を与える機会はほとんどなく、階級による職業制限などもありません。

ただし、バリでは名前を付ける際には階級が強く意識されます。

というのも、バリ人の名付けにはその階級に関係した一定のルールがあるからです。

例えば最も多いスードラ階級では、子供は生まれた順に次のようなルールによって名前が付けられます。

第1子:Wayan または Putu または Gede
第二子 :Made または Kade
第三子:Nyoman または Komang
第四子:Ketut
※最初に男性は「I(イ)」、女性は「Ni(ニ)」がつき、そのあとに自分のオリジナルの名前が続く
例:I Wayan Putra

※ Iは男性、 Wayanはスードラの第一子、Putraはオリジナル名を表しています。

同様に、スードラ階級以外の3階級(ブラーフマナ、サトリア、ウェシア)でも、生まれた順による名付けルールがそれぞれあります。

3. 唯一神サン・ヒャン・ウィディ

Canang

インドのヒンドゥー教には多くの神がいますが、最高神として知られているのは「ブラフマー」という神です。

一方、バリヒンドゥーは、インドのヒンドゥー教には存在しない神「サン・ヒャン・ウィディー」を最高神としています。

これにはインドネシアの建国五大原則の一つである「パンチャシラ」が関係しています。

インドネシアでは「パンチャシラ」に基づき、信仰する宗教は唯一神を奉じるものでなければならないというルールがあります。

しかし本来ヒンドゥー教は多神教であるため、バリのヒンドゥー教は当初はインドネシアの宗教として認められませんでした。

そこで、バリの宗教知識人が中心となってバリのヒンドゥー教の教義や制度、組織などを再定義し、インドネシア共和国の宗教として認めさせるための活動を起こしました。

パンチャシラにバリヒンドゥーを適応させるために考えだされたのが、次のような理論です。

バリヒンドゥーでは「サン・ヒャン・ウィディー」という唯一神を奉じており、多数の神はすべて唯一神「サン・ヒャン・ウィディー」の仮の姿である。

もちろん、これはインドのヒンドゥー教にはない考え方です。それどころかサン・ヒャン・ウィディーという神はそれまでバリ人にもほとんど知られていませんでした。

バリヒンドゥーをインドネシアの宗教として認めさせる活動としては他にも、1日3度の礼拝やヒンドゥー式の挨拶などが導入されるなど、もともとなかった習慣がいくつか付加されました。

こうした一連の活動の結果として、ヒンドゥー教はインドネシアの公式宗教として認められました。

ただ実際にはバリの人々の生活では今も昔ながらの多神教の考えが深く根付いており、新たに導入された1日3度の礼拝やヒンドゥー式の挨拶などの習慣は庶民の間にはさほど浸透していないのが実情です。

まとめ

イスラーム教徒が多数派のインドネシアの中で、バリ島では例外的にヒンドゥー教が広く信仰されています。その理由は、かつてジャワ島を中心に栄えたヒンドゥー教国「マジャパヒト王国」の盛衰の歴史が関係しています。

「バリヒンドゥー」と言われるバリ島の宗教は、ヒンドゥー教、仏教、バリ島の土着信仰が融合してつくられた宗教です。

こうした信仰の融合は実は珍しく、ヒンドゥー教が多神教的な特徴を持つことなどがそれを可能にした理由です。

バリヒンドゥーの独自性はバリ文化の形成に大きな影響を与え、それがバリ島の魅力につながっています。人々を魅了するバリ文化の秘密は、バリならではのこうした特殊な事情が大きく関係していたのです。

本記事がバリ島の宗教や文化の不思議な魅力を理解する一助になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。



参考文献

  • 森本達雄『ヒンドゥー教ーインドの聖と俗』中公新書. 2003
  • 倉沢愛子他『変わるバリ 変わらないバリ』勉誠出版. 2009
  • 村井吉敬他『エリア・スタディーズ113 現代インドネシアを知るための60章』明石書店. 2013
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