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タイ南部のイスラム世界ー仏教国タイの知られざる顔

Southern Thailand アジアの思想と宗教
アジアの思想と宗教

仏教国というイメージが強いタイは、国民の約94%が仏教徒です。

そんな仏教国タイに、実は多くのイスラム教徒が暮らす地域があります。

それが、タイ南部です。

タイ南部の情報はガイドブック等にも多くは書かれていません。

その一方で、「危険な地域である」ということはよく知られています。

いったい、タイ南部とはどのような場所なのでしょうか。

この記事では、知られざるタイ南部のイスラム世界の実態について解説していきます。



タイ南部とは?

まずタイは、東北部・中部・南部という3つの地域におおまかに分けられます。

同じ国でありながら、この3つの地域はそれぞれ全く異なる顔をしています。

その中でイスラム教徒の多いタイ南部は、バンコクやアユタヤ、チェンマイ、プーケットなどに比べると、その実態はほとんど知られていません。

海外だけでなく、多くのタイ国民にとってもこうした認識はほぼ同様です。

タイ南部のイスラム世界

ムスリムの家族

タイ全体のムスリムは2019年の統計で人口約390万人、総人口の約5%です。

そしてタイ南部にはイスラム教徒の約75%が集住しています

タイ南部の中でも特にイスラム教徒が多いのは、マレーシアとの国境に近い「深南部」と呼ばれる場所です。

すなわち、パッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県、サトゥーン県およびソンクラー県の一部です。

深南部に住む人々は、他国のイスラム教徒の人々と同様にイスラム教への深い信仰に基づいた日常を送っています。

タイの仏教徒とも隣国マレーシアのマレー人とも違う、「タイのムスリム」としての独自のアイデンティを持っています。

タイ南部の地図

 

深南部タイは、東側と西側で様相が異なります。

深南部タイの東側

パッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県の3県が深南部タイの東側地域です。

住民の約80%がイスラム教徒であり、マレー語を母語としています

現在のマレーシア北部(クランタン、クダー、トレンガヌ)と共通する要素も多く、文化的にはタイよりもマレーシアに近いといえます。

マレーシアとの行き来も地勢的に容易で、日常的に往来する人もいます。

後述するタイ南部の分離独立運動やテロ事件は、ほとんどがこの地域で起きています。

深南部タイの西側

サトゥーン県とソンクラー県の一部が含まれます。

こちらは、タイ語を母語とするイスラム教徒の多い地域です。

政治的に大きな問題になったことはなく、タイ政府からも、「模範的なムスリム」とされるタイ国民です。

マレーシアへ行くには交通の便が良くなく、マレーシアよりもタイのソンクラー、パッタルン、ハジャイなどの都市と物理的な人の往来があります。

タイ南部にムスリムが多い理由

タイ南部の子供達

タイ南部にムスリムが多い理由は、以前これらの地域に存在していたパタニという王国が関係しています。

パタニ王国とは

パタニ王国は、14世紀から19世紀にかけて存在したマレー人王朝です。

現在のパタニ県を中心としたタイ深南部およびマレーシアのクランタン州もパタニ王国の領土でした。

パタニ王国は東南アジアで最も早くにイスラム教を受容したことから、アジアのイスラム教育における中心地でした。

しかし19世紀末からタイに分割統治され、1909年には「英=シャム条約」でタイとマレーシアの国境が確定した際、旧パタニ王国はタイ領土に統合されました

かつては政治的な中心地であり、東南アジアのイスラム教育の中心地でもあった旧パタニ王国は、タイの中では「辺境」の扱いとなってしまったのです。

しかしタイ政府のイスラムへの無理解や、タイ的価値観の押し付けに不満を募らせた一部のイスラム教徒たちが分離独立運動を起こすようになりました。

タイ南部はどれくらい危険?

タイ南部の村

タイ深南部は、多くのガイドブックで「危険」だと記載され、外務省HPでは渡航中止勧告が続いています。

一体どれほど危険なのでしょうか。

以前から大小の暴動はありましたが、特に2004年以降は暗殺事件、爆破テロ、傷害事件などが頻発しています

報道によると、2004年からの17年間で約7,000人もの人がこうした事件の犠牲になっています。

無差別テロ事件も増え、犠牲者もムスリムと非ムスリムの双方にいるため、もはや事件の目的も犯人も特定しにくくなっているカオス状態です。

いつどこで誰が被害に合ってもおかしくないほど、テロや暴力的な事件が日常化してしまい、大変危険な状況です。

事件が多発する原因は?

以前はタイからの分離独立やムスリムの権利を要求する運動が起きていましたが、1990年代にはほとんど収束しました。

しかし2004年からは爆破、銃撃、放火などの事件が急増し、年間で計1,000件もの暴力的な事件が発生しました。

2004年以降の激化の原因はまだ明らかではないものの、もともとこの地域にあったタイ政府への不満が、1990年代後半頃からのイスラーム復興運動、9.11事件の影響、中東のイスラームネットワークなどと結びついて起きたのではないかと考えられています。

また、それ以外にも地元の犯罪組織(麻薬問題)なども関連し、実像が掴みにくくなっています。

まとめ

タイの中のイスラム世界であるタイ南部地域は、仏教国タイの中では異質な、イスラム教徒が多数を占める場所があります。

とくに深南部といわれる3県は、かつてパタニ王国が繁栄した場所です。イスラム教育の中心地でもあり、大半がイスラム教徒で、タイともマレーシアとも異なる独自のアイデンティティを持っています。

そんなタイ深南部では、以前から分離主義による事件はあったものの、2004年頃から治安が急速に悪化し、テロや暴力事件が頻発しています。

なかなか訪れる機会のないタイ南部は、このようにまだ混乱が続いている地域があり、まだ一般の人が訪れることは難しそうです。

最後までお読みいただきありがとうございました。



参考文献

  • 床呂郁哉ほか編『東南アジアのイスラーム』2012. 東京外国語大学出版会
  • T. フレーザー『タイ南部のマレー人』2012. 風響社
  • 綾部真雄編『タイを知るための72章【第2版】』2014. 明石書店
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