妖怪は、時代を問わず人気のコンテンツであり、定期的な妖怪ブームが起こっています。
日本以外のアジアでも精霊信仰や民間信仰が昔から根付いていたという地域がほとんどで、妖怪伝説は昔からいたるところで存在していました。
そんなアジア各地の妖怪伝説を俯瞰してみると、特定の地域にだけ存在する固有の妖怪だけでなく、驚くほどよく似た特徴を持つ妖怪が多数いることがわかります。
本記事では、アジアにみられる妖怪伝説をタイプ別にまとめています。
アジアにみられる妖怪の共通点、傾向、そして人々が何に恐れを抱いてきたのかということがみえてきます。
妖怪とは?
妖怪の定義はひとつではありません。
妖怪とはどのようなものなのか、専門家や人々の言い伝えの中で語られてきたものをいくつかみてみましょう。
妖怪とはどのようなものか?
目に見えないが、「何かいる」という感じが形になったもの
人間の心の闇(畏れ、恐怖心、恨みなど)が具現化したもの
自然のあらゆるものに宿る魂や精霊のようなもの
妖怪の特徴は?
人間には理解できない不思議な力を持つ
里と山の境、自然と人工の境など「境界」の周辺に現れる
都市化する中で徐々に認知されなくなってきた
この記事では、上記の定義や特徴を踏まえた、「目には見えない霊的なもの」を妖怪として紹介しています。
そのため、ほかの文脈では「精霊」「悪霊」「お化け」あるいは「伝説上の生き物」などといわれることがあるものも含んでいます。
各妖怪の性質や特徴は、人や地域によって認識が異なっていたり、時代によって徐々に変わっていくこともあります。
では、アジアの妖怪を種類別に見ていきましょう。
動く死体
アジアの妖怪と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
「キョンシー」は、私たちが最もイメージしやすいアジア妖怪の1つかもしれません。
キョンシー以外にも動く死体の妖怪は、いくつかの地域でみられます。
特徴としては、遺体が拘束されていたり死後硬直しているため、体が硬く、人間離れした動きをすることです。
硬直したことによる不自然な動きは、かえって恐ろしさを増幅させています。
僵尸〔きょうし〕(中国)
いわゆる「キョンシー」です。腐敗しない死体であり、昼間は棺桶の中で眠り、夜になると動き出します。
怪力かつ凶暴であり、人をさらって食べる恐ろしい妖怪で、道教を修めた「道士」だけが退治することができるとされています。
この中国のキョンシーを主軸にした香港のホラー映画『霊幻道士』シリーズがアジアで大ヒットしたのを皮切りに、その後に台湾で『幽幻道士(キョンシーズ)』シリーズができ、日本でも『幽幻道士』シリーズは放映され人気を博しました。
そして、TBSの出資により台湾で製作された『来来!キョンシーズ』というテレビドラマが日本向けに放送されたことで、キョンシーの認知度が爆発的に上がりました。
ポチョン(インドネシア)

成仏できずに墓の中から現れる死体の霊です。
インドネシアでは、亡くなった人は白布を頭の上、首、腰、足首、足の下で縛る慣習があります。
そのためポチョンは歩くことができず、キョンシーのようにピョンピョンと飛んで移動し人々を怯えさせます。
マレーシアでは同様の妖怪がハントゥ・バンクスともいわれています。
インドネシアでは、コロナ禍の外出自粛対策として、ポチョンに扮して人々を怖がらせ、外出自粛を促した地域もあったことが話題になりました。
アマランヒグ(フィリピン)
死んだあとに墓の中から出てくる妖怪。牙で人に噛みついて殺してしまいます。
体は硬直しているため、直線上にしか進むことができません。そのため、ジグザグに進むとアマランヒグから逃げることができます。
また、水も苦手とするため、川や湖に飛び込む方法も有効といわれます。
首だけ妖怪

実は、アジアで非常にメジャーな妖怪のひとつが「首だけ妖怪」です。
「首だけ妖怪」はアジア各地に存在しており、それらは非常に細かい特徴も含めて、多くの共通点があります。
日中は普通の人間として生きている
夜になると首(または上半身)だけが抜けて浮遊する
吸血性がある
日の光に弱い
日の出までに首から下の体に戻らないと死んでしまう
では、そんなアジアの「首だけ妖怪」の伝説を見てみましょう。
抜け首(日本)
首が伸びる「ろくろ首」の仲間で、もとはろくろ首といえば抜け首のことだったようです。
普段は普通の人間として暮らしているものの、夜になると首だけが抜けて飛び、人の血を吸います。首が抜けている間に身体を動かしてしまうと、元に戻れなくなるともいわれます。
江戸時代、女性の生霊が抜け首になって徘徊していたのを目撃されたという話が残っています。
飛頭蛮〔ひとうばん〕/落頭民〔らくとうみん〕(中国)
普段は人間と変わりない姿をして、夜になると首のみが胴体から離れて空中を飛び回ります。
中国の秦の時代には、南方に落頭民(らくとうみん)と言われる人種がいたとされ、耳を翼のようにして飛んでいたようです。南方に出征した将軍たちの中には、落頭民に出会った人が何人もいたと伝えられています。
朝までに首が胴体のところへ戻ることが出来なければ、そのまま死んでしまいます。
ガスー(タイ)/ ペナンガラン(マレーシア)/ クヤン(インドネシア) アープ(カンボジア)

これらはすべて同じ妖怪であると考えられます。
首から下に臓器がぶら下がった状態で空を飛ぶ女性の妖怪です。夜空を飛ぶ際に内臓が発光して火の玉のように見えます。現地では非常に恐れられていますが、昼間は普通の人間として暮らしています。
日の出前までに残った体に戻らないと死んでしまいます。浮遊中に残った体にガラスの破片を入れたり、そのまま身体を燃やしたりして退治することができます。
タイのガスーやカンボジアのアープは、家畜を襲って血や内蔵をむさぼります。夜中に外に干したままの洗濯物が朝になって血や排泄物で汚れていたら、ガスーが口を拭った跡だと信じられています。
一方、マレーシアのペナンガランは妊婦と胎児の血を吸うといわれます。そのため、昔は女性が妊娠すると、トゲのついた植物の葉を散らしたり、割れたガラスを撒いたりするなどの予防策を施していたようです。
マナナンガル(フィリピン)

首から上ではなく、上半身と下半身を切り離し、背中にコウモリの翼を生やして飛ぶ吸血性の妖怪です。
マナナンガルは女性で、日中は人間社会に溶け込んで暮らし、夜になると背中からコウモリの翼が生え、上半身を切り離して獲物を探して空を飛びます。お産の近づいた妊婦を好む傾向があり、長く尖った舌を妊婦の腹に刺して、中の胎児の心臓や妊婦の血を啜ります。
マナナンガルの下半身は立ったまま残っており、切断面に塩やニンニク、灰などを塗りつけると、上半身はくっつくことができなくなり、日の出とともに消滅するといわれます。
吸血妖怪
首だけ妖怪には「吸血性」という特徴がありましたが、次に、首だけ妖怪以外のアジアの吸血妖怪についてもみていきましょう。
アスワン(フィリピン)

フィリピン版ヴァンパイアといわれるフィリピンの代表的な妖怪です。
昼間は美しい女性ですが、夜になると若い男性を誘惑して生き血を啜ったり、内臓や腐肉を食べたり、時には妊婦と胎児を襲ったりもします。
さらに、様々な動物に変身することもできます。
前述した、上半身が分かれるフィリピンのマナナンガルは、アスワンの一種だともいわれます。
フィリピン発のホラーコミックが原作のアニメ『異界探偵トレセ』にも登場したり、アスワンをテーマとした映画も多数作られるなど、アスワンは、フィリピンでは非常にメジャーな妖怪です。
マンドゥルゴ(フィリピン)
アスワンとよく似ていますが、マンドゥルゴは主に男性を襲う女性の吸血妖怪です。
夫や恋人に裏切られた女性が、夜になると鋭い舌で男の首を刺して血を吸います。夜な夜な血を吸われた男はやがてやせ細り、最後には死んでしまいます。
ラングスィル(マレーシア)
お産や死産のショックで亡くなった美しい女性の妖怪です。
緑色のローブを着ており、非常に長い爪と長い髪が特徴です。首の後ろには穴があり、そこから子供の血を吸います。
空を飛んで人を襲いますが、ラングスィルの爪を切り、さらに髪で首の穴を塞ぐと、これを避けることができるとされます。
妊産婦の妖怪

妊婦や胎児が吸血妖怪の標的になりやすいという特徴があるようですが、妊産婦自身が妖怪となっている例についてもみてみましょう。
スンデルボロン(インドネシア)
妊娠中に非業の死を遂げた女性の妖怪で、長い黒髪に白いドレスを着て男性を誘惑します。
背中には大きな穴が空いているのが特徴で、これは赤ん坊が墓の中で背中を突き破って出てきたためです。
この背中の穴は普段は長い髪で隠されていますが、背中の穴が見えると、その正体がスンデル・ボロンであることがばれてしまいます。
ポンティアナック(マレーシア)/クンティラナック(インドネシア)

妊娠中に不慮の事故などで亡くなった女性の妖怪で、長い黒髪に白いドレスを着て、血まみれの姿をしていることもあります。
人を襲い、鋭い爪で腹を割いて臓器を食べたり、首に噛みついて吸血します。
赤ん坊の泣き声とともに出没し、プルメリアの香りを漂わせて現れますが、去る時には腐敗臭になっています。
ポンティアナックは夜に洗濯物が干してあるのを見つけて獲物を決めるといわれており、昔は夜間に外に洗濯物を干したままにしないようにしていました。
マレーシアとインドネシアではポンティアナックやクンティラナックをモチーフとした映画が多く製作され、そこからこの妖怪の具体的なイメージが作り上げられました。
ピー・ターイタンクロム(タイ)
胎児を腹に抱えたまま亡くなってしまった妊婦の悪霊です。
凶悪な悪霊のため、タイでは胎児とともに亡くなった女性はピー・ターイタンクロムにならないよう、決められた方法に従って手厚く葬ります。
産女〔うぶめ〕(日本)

妊娠中に亡くなったり、難産で亡くなった女性が十分に供養されず成仏できなかった場合になってしまう妖怪。
出産時の血で染まった白い服を着て橋や道の端で泣き、道行く人に自分の子を抱いてくれるように頼みます。その子を抱くと、やがて抱いていられないほど重くなり、気づくとそれは石だったりします。
姑獲鳥〔うぶめ〕(中国)
出産で亡くなった妊婦が化けた鳥で、幼児のような鳴き声をして夜間に飛行し、他人の子供を奪って自分の子にしてしまいます。毛を着ると鳥になり、毛を脱ぐと女性になるといわれています。夜に干してある子供の洗濯物に血で印をつけてターゲットを定めます。
日本の妖怪「産女」が中国の妖怪である姑獲鳥と同一視され、「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と読むようになりました。これは、産女が姑獲鳥と混同され、同一視されたためと見られています。
妊婦の妖怪は、他人の子をうばったり、吸血性があったり、内臓を食らうなどの共通した特徴があります。
夜の間に洗濯物を物色してターゲットを定めるという細かい点も共通しているのは興味深いです。




