木の精
小さい人の形をした妖怪は自然にちなんだものが多いですが、自然に棲み着くそのほかの妖怪を見てみましょう。
キジムナー(沖縄)
沖縄で言い伝えられている「キジムナー」は、ガジュマルの木で暮らす精霊です。
赤ん坊くらいの大きさで、全身が赤い毛に覆われています。漁が得意で、特に魚の目玉がお気に入りのようです。
基本的に人間に害を与えることはありませんが、キジムナーの住処を破壊したり、裏切ったりすると徹底的に復讐されてしまいます。
カプレ(フィリピン)

マンゴーやアカシアなどの木に棲んでいる妖怪。
黒っぽい肌をして大きな体をしていますが、そのサイズを自由自在に変えることができます。
よく木の上に座りながら葉巻を吸って通行人を観察していいます。
人間に害を及ぼすことはないですが、稀に人を驚かすことがあります。
ナーンターニー(タイ)
食用ではないバナナの樹に宿る精霊で、美しい女性の姿をしています。
バナナの花の様な良い香りを漂わせて男性を誘惑し、男性は次第に精気を吸い取られて死んでしまうといわれます。
木霊〔こだま〕(日本)
もともとは、木こりが木に導かれて木になってしまったものだといわれます。
霊魂が宿る大木で、この木を切り倒してしまうと、切った人だけでなくその周囲の人にも災いがもたらされてしまうとされています。
日本で大木が神聖なものとされて崇められるのは、木に霊魂が宿っているためだと考えられています。
水辺の妖怪

自然に関連する妖怪は、陸だけでなく、水と関連のあるものも非常に多いです。
特に、水辺の妖怪はアジア全域に非常に多く存在します。
川や海の事故を避けるため、人々が水辺に近寄らないように水辺における自然の恐ろしさを教えるためにつくられたとも考えられます。
河童(日本)
日本の代表的な妖怪の一つで、全国の川や湖などに生息するといわれます。
子供ほどの大きさで、頭の上にお皿をのせたおかっぱ頭をしており、くちばしと水掻き、さらに甲羅があるものもあり、全体的に爬虫類のような風貌です。
江戸時代以前は、人や動物を水中に引きずり込んで殺してしまう恐ろしい妖怪でしたが、やがてかわいらしいイメージに変わり、キュウリと相撲が好きな妖怪という印象が定着するようになりました。
河童は水源を守る水神信仰と深くかかわっているといわれることがあります。
ミンツチ(アイヌ)
アイヌ伝承に伝わる川に棲む精霊で、河童と非常によく似ています。
子供くらいの背丈で、おかっぱ頭ですが、頭頂部は禿げています。肌は赤や紫をしていて、鳥のような足跡を残します。
人を水中に引きずり込むこともある恐ろしい妖怪ですが、魚族を支配している水の神でもあるため、人に大漁をもたらしたり、まったく魚が採れなくしたりすることができるそうです。
水鬼〔すいき〕(台湾)
川で溺れた人の幽霊とされ、川辺を通る人を引きずり込んで自らの身代わりにし、それによって水鬼が水の中から抜け出せるとされます。
水鬼となった者は、同様に別の人を水に引きずり込まない限り、いつまでも水の中から出られません。そのため、台湾では人々から非常に恐れられています。
水虎〔すいこ〕(中国)
中国湖北省などの川にいたとされる妖怪。
子供の体で、頑丈な鱗に覆われ、背中には硬い甲羅があり、爪は虎のように鋭く尖っています。普段は水辺にいる大人しい存在ですが、悪戯をする子供には噛み付いて仕返しをするという恐ろしい面もあります。
日本にも中国の水虎の話が伝わっており、水虎は河童の親分ではないかと考えられています。
ピー・プラーイ(タイ)

水辺に生息する妖怪ですが、もともとは難産で亡くなった女性が悪霊となったものです。
気性が荒く、人に災厄をもたらします。川で漁などの仕事をしている人に近づき、足を引っ張って溺れさせて殺してしまいます。
水中の妖怪
水辺だけでなく、水中の妖怪も存在します。
磯女(日本)
夜の海の岩山に現れる美しい女性の妖怪。
髪をかきなでながら美しい声で歌い、岩の側を通った船の漁船員が見とれていると、船はどんどん岩の方へ近づき、岩にぶつかり船は粉々になってしまうといいます。
海坊主(日本)
全国の海に現れ、静かな海に突然大きな波を起こして波間から現れる巨大で黒い妖怪です。
海坊主が出たときは黙って海坊主を見ないようにしないと、海にいた船はすべてひっくり返されてしまうそうです。
タクラハ(台湾)

台湾で最も大きな湖のある日月潭に住むサオ族に伝わる妖怪。
人間の女性の顔に長い髪で、人魚のような姿をしています。
人間が湖の魚や貝をとりすぎるためタクラハが怒ったため、人間は魚を採り過ぎないようになったと言い伝えられています。
魚頭(中国)
魚と人間が一体となったような妖怪ですが、人魚とは逆で、頭部が魚で胴体が人間という姿です。
川の中から現れて人を襲い食べてしまい、特に幼い子供を好みます。
陵魚(中国)
人の顔をしていて胴体が魚、さらに人間の手足が生えている半身半魚の妖怪。
遠くから見ると人間が海を泳いでいるように見えるため、溺れていると思って声をかけると何の反応もなく陵魚だったとわかるようです。
ショコイ(フィリピン)

海に棲む獰猛な性格の半魚人。
緑色の肌で水掻きやヒレを備え、全身は鱗に覆われいて、首にエラを持ち、エラ呼吸しています。
海に人間を引きずり込んで溺れさせて食べてしまいます。
ルルコシンプ(アイヌ)
アイヌの伝承に登場する人魚のような姿をした精霊。
美しい女性となって人間にとり憑き悪事を行い、とり憑かれた人は気がおかしくなってやがて死んでしまいます。
その一方で、とり憑いた人を良い運命に導く、良いルルコシンプもいるといわれます。
まとめ
アジアのさまざまな妖怪を、よく似ているタイプごとに見ていくと、遠く離れた場所でも非常によく似た共通点を持つ妖怪の伝説が存在しているということがわかりました。
この事実は、何を意味するのでしょうか?
たとえば、昔はどの地域でも起こり得た様々な災難を妖怪の仕業だと考えていた可能性があります。
現在よりも出産で亡くなる母や子が多かったことから、妊婦の妖怪や赤ん坊の妖怪がいると考えたり、川や海の水難事故が多かったことから、水辺に近付かないようにと河童のような妖怪が考え出されたと考えられます。
また、昔は貧しさから子供を「間引く」慣習があったことから、座敷童子のような妖怪も考えだされたと考えることが可能です。
さらに、現在のような情報メディアがなく、自分たちの属するコミュニティ以外との接触がなかった頃は、他のコミュニティを未知の恐ろしいものだというように想像をふくらませて、妖怪がつくられたとも考えられます。
遠く離れた地域で似たような妖怪が存在するという現象は、人類が共通してそのようなものに恐れを抱いていたということなのでしょうか。
あるいは、様々な地域における似たような状況や場所では、人間が共通して感知できていた「何か」があったのかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
- 小松和彦『大人の探検 妖怪』2015. 実業之日本社
- 水木しげる『世界の妖怪大図鑑』2022. 講談社
- 水木しげる『水木しげる 妖怪大百科』2020. 小学館
- 水木しげる『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』2014. 講談社
- 京極夏彦『対談集 妖怪大談義』2005. 角川書店
- 何敬堯『図説 台湾の妖怪伝説』2022. 原書房
- 押野武志ほか『交差する日台戦後サブカルチャー史』2022. 北海道大学出版会




