本記事では、シンガポールのおすすめ映画を新旧合わせて10本ご紹介します。
シンガポールは1965年のマレーシアからの分離独立以降、経済最優先の政策がすすめられ、映画などの文化芸術面の発展は長い間後回しにされてきました。
そのため、一時期はシンガポールの映画産業が廃れ、国産映画がゼロになったこともあるほどです。
しかし2000年前後から徐々に新世代の映画人が登場するようになり、シンガポールの映画産業は活気を取り戻します。芸術面における政府からの支援も図られるようになってきました。
現在では非常に多彩なテーマのシンガポール映画がつくられており、その数はますます増えています。
シンガポール映画を観てみたい!と思ったら、ぜひ本記事で紹介しているシンガポール映画リストを参考にしてみてください。
映画でよく描かれるテーマ:
都市生活、多文化共生、家族、教育、社会格差、政治、歴史と文化、犯罪など
東南アジア各国における映画事情については、こちらの記事をお読みください↓
消えた16mmフィルム
原題:Shirkers
製作年:2018年
製作国:アメリカ
監督:サンディ・タン
1992年、シンガポールで『シャーカーズ』という自主制作映画を作っていた若者たちでしたが、完成を目前にしてそのフィルムが行方不明となり、計画は頓挫したかにみえました。
しかしそれから25年後にフィルムがみつかり、そこで明らかになった真相を追うドキュメンタリー映画です。
冒頭からひたすら不穏な空気感がつきまとい、最後まで一体どこへ向かうのかまったく予測がつかない不思議な作品。
若者たちが制作していた自主映画には、今見ても驚くほど尖ったセンスや斬新な表現がふんだんに盛り込まれていて、もし当時上映されていたらシンガポールの映画文化が変わっていたのではないか…と思うほど衝撃的です。
また一方で、今ではもう見ることのできない、熱帯ジャングルだった頃のシンガポールの風景も自主映画の中にところどころに挿入されていて、ノスタルジーをかきたてます。
フォーエバー・フィーバー

原題:FOREVER FEVER
製作年:1998年
製作国:シンガポール
監督:グレン・ゴーイ
ブルース・リーに憧れながらも、スーパーの店員としてさえない日常を過ごすホック。
ある日観た映画『サタデー・ナイト・フィーバー』に心を奪われた彼は、ディスコダンスに目覚め、大会への出場を決意。
家族や恋愛の悩みも抱えながら、ホックの青春サクセスストーリーが展開されていきます。
本作は1998年に公開された、シンガポール映画として初の国際配給作品。
アジア版『サタデー・ナイト・フィーバー』とも言えるこの作品には、1970年代のシンガポールの下町の雰囲気や庶民的な生活、シンガポール特有の言語や文化などのローカルな風景が随所に散りばめられています。
泥臭くもエネルギッシュな登場人物たちが、自分の居場所を探しながら踊り続ける姿には、時代を超えた熱があふれています。
ダンスシーンも迫力満点で、ポップカルチャーとアジア的アイデンティティの交差点を描いた、記念碑的な1本です。
マネー・ノー・イナフ
原題:钱不够用/ Money No Enough
製作年:1998年
製作国:シンガポール
監督:テイ・テックロック
超がつくほどお金が大好きなシンガポール中年男性3人のお金をめぐる騒動を描いたコメディ映画。
シンガポール人は給料、昇進、株、宝くじなどお金に関する話題が大好きで拝金主義を隠さない人も多いのですが、本作ではそんなシンガポール人の国民性をユーモラスにとらえて風刺しており、随所に見られる「シンガポールあるある」にクスリと笑えます。
1998年にシンガポール歴代最高収益をあげ、2011年まで記録が破られることはありませんでした。
映画内では誇張されてはいるものの、根底にあるシンガポール人の気質を知ることができる興味深い作品です。
シリーズ第一作目が1998年、第二作目が2008年にそれぞれ公開され、ついに2024年には第三作目が公開されました。
長年シンガポール国民から圧倒的に愛されている作品だということがよくわかります。
クレイジー・リッチ!
原題:Crazy Rich Asians
製作年:2018年
製作国:アメリカ
監督:ジョン・M・チュウ
映画『クレイジー・リッチ!』は、シンガポールの富裕層社会を通して、アジアにおける歴史、家族、結婚、文化的価値観のダイナミズムを描いた作品です。
物語の主人公は、ニューヨークで育った中国系アメリカ人のレイチェル。彼女は恋人ニックの家族に会うためにシンガポールを訪れますが、ニックの家は地域でも有数の資産家であり、伝統的な価値観を重んじる名家です。
作品では、結婚をめぐる葛藤や、家族間の緊張、世代や文化の違いによる対立が描かれますが、単なる対立にとどまらず、その裏にある歴史の重みや一族の誇りに関わる価値観の継承が物語の核となっています。
作中に繰り返し登場する「プラナカン文化」は、東南アジアにおける華人系住民の歴史や美意識を象徴する要素として扱われています。衣装やインテリア、食器などに見られる装飾性は、地域文化の多層性を示しています。
また、映画の背景として登場するシンガポールの街並みや食文化は、物語の舞台装置として機能しています。夜市の風景や屋台料理、色彩豊かな建築などが、視覚的な魅力を加えています。
映画に登場する文化的背景については、以下の記事で詳しく解説しています。作品をより深く理解したい方は、あわせてご覧ください。
見習い
原題:Apprentice
製作年:2016年
製作国:シンガポール、ドイツ、フランス、香港、カタール
監督:ブー・ユンファン
死刑制度のあるシンガポールで新人刑務官として働き始めた物静かな青年。しかし青年が刑務所で働くのには、誰にも言えない理由がありました。
画面上は物語が淡々と進むように見えますが、青年の抱える事情を考えると、全てのやり取りに神経が消耗され、心がざわつきます。
本作は死刑という非常に重いテーマを扱っており、それに見合う静かで重い雰囲気の物語です。執行する側、される側、そしてその家族などそれぞれの立場の苦しみが丁寧に描かれています。
シンガポールでは、違法薬物を一定量以上密輸した場合には死刑が課せられることがあり、その厳しさについては国内でも議論があります。この物語にはそんな現状を考えさせるシーンも含まれています。
俳優陣の重厚な演技が物語に深みを与えています。
私たちの物語
原題:我們的故事/ Long Long Time Ago
製作年:2016年
製作国:シンガポール
監督:ジャック・ネオ
シンガポール建国50周年を記念して製作された作品で、ある家族の物語を通してシンガポールが歩んだ歴史を振り返るという構成になっています。
シンガポールがマレーシアから分離独立した1965年から物語はスタートし、国民登録、徴兵制度の導入、初めての選挙、現在まで続く人民行動党政権の幕開け…など、シンガポールが実際に経験した様々な歴史的出来事を庶民の目線から描き、網羅的にシンガポール近代史を学ぶことができます。
ジャングルのような場所に家を建てて暮らしていたり、子供を売らなければならないほど子沢山で貧しかった時代も描かれており、そこからわずか60年ほどで近代的な都市に劇的に変化したシンガポールの発展スピードには改めて驚かされます。
メイド 冥土
原題:The Maid
製作年:2005年
製作国:シンガポール
監督:ケルヴィン・トン
国内で大ヒットを記録したシンガポールのホラー映画。
メイドとして働くためにフィリピンからシンガポールにやって来たローサ。
ちょうどその時期はシンガポールで「鬼節」といわれる旧暦の7番目の月にあたり、死者の霊がこの世に降りてくるとされ、避けなければならない多くの禁忌事項があります。
しかし、そんなことなど知る由もないローサは、知らず知らずのうちにタブーを犯してしまい、それ以来身のまわりで奇怪な現象が起こるようになります・・。
異国の地に渡り、赤の他人の家で一人働くメイドの孤独と不安がリアルに描かれており、実際にシンガポールで働く多くのメイドたちも同じような気持ちを味わっているであろうことが想像できます。
本作はそうした孤独感や不安感に加え、さらに死や霊に関わる恐ろしい風習への戸惑いも重なるため、その恐怖は何倍にも感じられます。
文化圏の内側にいる時には当たり前に思えることも、実は外側から見ると奇妙で得体の知れない恐ろしいものになり得る、という点をうまく活かしたホラー作品といえます。
TATSUMI マンガに革命を起こした男
原題:TATSUMI
製作年:2010年
製作国:シンガポール
監督:エリック・クー
漫画を子供の娯楽から大人の読み物へと発展させ、海外で特に人気が高い日本人マンガ家・辰巳ヨシヒロの自叙伝漫画と短編漫画5話を映画化した長編アニメーション。
監督は『ミー・ポック・マン』で新たなシンガポール映画の潮流を打ち立てたエリック・クーです。
「なぜ、日本人漫画家の半生の映画化をシンガポール人監督が?」と思うかもしれませんが、実はエリック・クー監督自身もかつては漫画家であり、初めて辰巳マンガを読んだ時には衝撃を受けたそうです。そして、自身の映画作品に多大な影響を及ぼしたと本人が語るほど、辰巳作品への愛と敬意にあふれています。
戦争末期~高度経済成長期の時代の日本を舞台とした設定の作品が多く、全体的に陰鬱な雰囲気の中で繰り広げられる人間の愚かさや残酷さ、醜さを描いた大人向けのダークな作品です。
12階
原題:十二樓/ 12 Storeys
製作年:1997年
製作国:シンガポール
監督:エリック・クー
シンガポール映画の黎明期を代表する作品で、1990年代のシンガポールのHDB(公営住宅)を舞台にした市井の人々の群像劇。
シンガポール社会で理想とされる価値観が幸福の鍵であると信じて疑わない者、その価値観を押し付けられて苦しむ者。
息苦しいシンガポール社会で生きる彼らの心の傷が露わになり、あるいは崩れ、そして癒されていく様子が描かれています。
東南アジアで経済的トップをひた走ってきたシンガポールは、豊かさと引き換えに多様な価値観を押さえつけてきました。しかしそれはやがて社会のゆがみを顕在化させます。
本作が製作された時代(2000年前後)は、そんな従来の「理想的な価値観」が限界を迎えようとしていた時期であったのかもしれません。
シンガポールの繁栄や輝きが注目される影で、その流れに乗れなかった人、価値観に合わなかった人、成功を目指して失敗した人など、その流れから外れてしまった人々を淡々とみつめ、寄り添うような気持ちになります。
シンガポールへ、愛をこめて
原題:星国恋/ To Singapore, with Love
製作年:2013年
製作国:シンガポール
監督:タン・ピンピン
共産党活動に関わったなどの理由で1960-1970年代にシンガポールから政治亡命し、現在も海外生活を余儀なくされているシンガポール人たちの母国への思いを記録したドキュメンタリー映画。
必ずしも過激な思想を持っていたり破壊的な活動に従事した人ばかりではないにもかかわらず、何十年もいまだに祖国の地を踏むことができていません。
シンガポールはその輝かしい発展の代償として、権威主義体制によって国民の自由な言論や活動を厳しく制限してきた歴史があります。そんなシンガポールの影の部分を伝える本作ですが、シンガポール国内での上映および配給は禁止となっています。
まとめ
新旧様々なタイプのシンガポール映画をご紹介しました。
経済発展を優先し、独立後から2000年頃まではあまり製作されていなかったシンガポール映画。
その空白の時代を取り戻すかのように古き良き懐かしい時代を描く作品や、経済優先政策によって生じた社会のゆがみを皮肉る作品が多い点などは、シンガポール映画ならではの特徴といえます。
それは、映画という文化を長期間実質的に封印してきたシンガポール社会の「通過儀礼」のようなものなのかもしれません。
そんな通過儀礼を終え、シンガポール映画はこれからますます自由で多様な作品が増えていくことと思います。
本記事が、シンガポール映画およびシンガポール社会を知るための参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。













